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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

鬼神楽 4

   

9年前のあの日…神楽は使用人のつねと話すうちに、あの町でのことを思い出す。忌み子とからかわれ、エスカレートして二階から飛び降りろと迫られる。その時、神楽が思ったことは、大好きな両親が平和にこの町で暮らしていける、ただそれだけだった。

 

 

◆◇◆◇◆

 九十九弘光の書斎を出た神楽は、背後から声をかけられて足を止めながら振り返る。
 近くを掃除していたらしく、手に雑巾を持ったまま近寄ってくる70歳くらいの女性。
「お嬢様、よろしいのですか?」
 神楽をお嬢様と呼ぶのは、この女性だけ。
「つねさん、そんな呼び方をしたら、また旦那様に折檻されてしまうわよ?」
「折檻など、たいしたことではありません。あなたは、正真正銘、九十九家のお嬢様。旦那様もご存じのはずなのに」
「いいのよ、そんなことは些細なことだから。それに、お嬢様になってしまったら、自由がないじゃない?」
 それもそうですね――と納得をしたつねだが、まだ納得ができないことでもあるようで、浮かない表情を続けている。
「あの、神楽様。本当に行かれないのですか?」
「つねさん、聞いていたの?」
「たまたま聞こえたのでございますよ。この時間、この辺りを掃除していることは旦那様もご存じのはずですので、もしかしたら私に聞かせるように仕向けていたのかもしれません」
「つねさんが説得すれば私が動くと? そんなことをお考えになるなんて、九十九当主もたいしたことがないわね」
「ちょっ……神楽様、お言葉が過ぎますよ。でも本当に……」
「いいのよ、つねさん。今更顔を出しに行っても、喜ぶ人はいないのだから」
「ですが、上川の家とは行き来も連絡の取りあいも許されているのですから」
「そうね。律儀に年賀状と夏の挨拶状は届いているわ。でもね、私はそれに返事を出したことがないの。上川神楽はもうこの世にはいないのだから」

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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