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男子会①

   2016年4月27日  

 土曜日のランチタイム明けの休憩時間、飛由から唐突に明日の日曜に銭湯に誘われた。
 唐突すぎる話にポカンとする速斗。
 飛由の勢いに負けて、食事と銭湯に行くことが決定した。

 翌日、飛由からのモーニングコールに起こされてベッドから這い出し速斗は何とか身支度を済ませた。
 今日は飛由と速斗が二人で食事と銭湯に行くのではない。
 ピアノフォルテの参加可能な男性のみが集まって開催される男子会なのだ。

 

 
「ねぇ、今度の日曜日空けといて!一緒に銭湯行こうよ!」
 土曜日のランチタイム終了後の昼休憩の時のこと。
 あまりのも唐突な飛由からの持ちかけに、話を切り出された速斗はキョトンとしてしまって声も出なかった。
「シンさんも諒さんもいくんだって!あとヤマさんも!マスターは予定が合わなかったみたいだけど、ヒロさんも来るよ!速斗君は行くよね!ねっ!行こうよ!!」
 飛由がこうして目をキラキラと輝かせながら見上げてきて、一応の形でお願いするときは、最初から拒否権なんてものはない。
 勢いもさることながら、いつまで経っても一向に変わることのない彼の外見は、時として今速斗を見上げている時のようにどうしようもなく愛らしい子どものような顔をする。
 幼さに加えて期待に満ち満ちた表情を目の前にしてしまっては、その誘いを無下に断るのは心苦しい。
 実際は速斗よりも飛由が五つも年上なわけだが、なんだか年下に見えてならない。
「…何時にどこに行けば、」
「僕が速斗くんちまで迎えに行くから、そのままごはん食べに行くことになってるんだ~!ヒロさんがおいしいお好み焼き屋さんを見つけたんだって!明日迎えに行くから、今日は徹夜しないでちゃんと寝てお昼までには起きててよ?朝、モーニングコールしてあげるから!」
 留まることを知らない飛由の勢いに、速斗は乗っかるしかなかった。
「わかったよ。で、何時に電話してくれるの?」
 苦笑しつつ、飛由をなだめながら時間の確認を取る。
 というのも、彼の起床時間がべらぼうに速い事があるのだ。
「んー、四時!」
「ムリ!」
「じゃあ九時!」
「最初からその時間に起こしてよ。」
「はーい。」
 ムッとして棒読み状態の返事をし、飛由はちらりと速斗を見上げた。
 すると速斗もこちらを見ていて、視線がぶつかり二人同時にプッと吹き出した。
「明日もお弁当作るの?」
 飛由の苦労は、長い付き合いの速斗だからこそ知っている。
「そうだよ。大人六人分。みんなよく食べるから、気合入れて作んなきゃね!作り終わらない。」
 早朝からエンジン全開で体が動かせるのは、坂下家で飛由しかいない。
 彼の家庭は両親や兄弟等みんな就寝時間がかなり遅い。それは仕事の関係でそうなっている人もいれば、勉学で寝る時間が遅くなってしまうものもいる。
 だから飛由は自ら早朝の弁当作りを買って出た。
 全員分の弁当を作って、仮眠から起床するのが朝九時。
 弁当を作るために起床する時間が早朝四時だから、最初飛由は速斗にモーニングコール四時を提案したのだ。
 まあ言わずとしれた冗談なのだが、自らの口から放った言葉は素直に飛由の頭にインプットされる。
 だから結局のところ、おそらく飛由から十中八九速斗の携帯に早朝四時にモーニングコールが入ることだろう。
「からだ、大事にしなきゃだよ。」
 速斗は飛由が心配でならない節がある。
 家族をいたわる飛由も、本来ならば休息という言葉を覚えた方がいいというくらいに毎日走り回っている。
「うん。ありがとね。」
 こうしてニコリと微笑む飛由本人が、それはよくわかっているつもりである。
 しかし彼がまとうふんわりとした雰囲気とあどけない笑顔の裏側に、想像もつかないくらいに頑固なのだ。
 それは、おそらくこのレストランで彼の右に出るものがないくらいに。
 自ら譲れないと思っていることは、とことん譲らない。
 それが速斗の知る、坂下飛由という男だ。
「じゃあまた連絡するね!」
「わかった。」
 こうして二人の口約束は、いったん幕を閉じた。

 

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