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SF・ファンタジー・ホラー

ウパーディセーサ〈三十二〉

   2016年5月11日  

なんだか仲良くやってるみたいじゃないか? えっ? お前は遊びでやってるのか? 水様のためにお前は存在しているんだよ。なんだあの報告書は。小学生の絵日記じゃないんだぞ。お前の潜入捜査はおままごとだ。もっと本気を出せよ! 誰がお前を救ってやった? 言ってみろ!

 

 
 暫くの時が経った。
 僕はここにいる。
 ウパーディセーサと云う秘密結社の中に……
 僕は迷っていた。こんなものが現実だなんて。今まで培ってきた全てが否定された。宮守、平山、沼堀、鏡。この人たちは世界を守っているという。この残虐な陰謀の中で……
 この陰謀の主犯格はここのはずだ。しかし、ここの者は口を揃えて言う。
「マハーパリニルヴァーナ財閥こそ諸悪の根元。武力行使では歯が立たない。だからこそ目には目を。此方もサイバー攻撃で手を打つしかない」
 何て気持ちだ。今まで信じて来たものが根本から否定されたような……本当の悪ってなんなのだろう。皆んなが言うように、本当に水《かつみょう》が悪なのか、それとも勇作が言うように、この秘密結社。ウパーディセーサが悪なのか? 僕はどうして良いのか分からない。
 潜入捜査前日。松原は言った。
「緋多君、何が真実か……それって見てみないと分からないものなの。何が悪で何が正義か。陰と陽は互いに支え合ってるの。正反対の色は逆に同じ色とも言えるわ。だから、貴方は自分の目で確かめて来なさい。そして私で良ければいつでも相談に乗るわ。壊れてしまう前に、試してみて」
 その松原の言葉が脳裏に刻み込まれている。今、目の前に広がるシステムルームを前にして。

 そんな中で僕はスパイとして、逐一、松原へ状況を報告していた。
 松原と作った機密プログラムを利用して、毎日報告書を送信している。
 周りからは、仕事熱心だと言われた。夜遅くまで、皆が眠りについた頃に今日の出来事を流している。ただ、厄介な人がいるのだ。
 平山聖埜《せいや》。この人は休むということを知らない。一晩中、自分のデスクから離れない。僕のデスクと平山のデスクは斜め向かいだ。その目をかいくぐって報告書をまとめなければならない。たまにタイプする手が震える事がある。その手の震えから、僕の動揺が身体から滲み出ている気がして……曇ったメガネから光る眼が恐ろしい。
 大丈夫だ。僕は戦士なんだ。何だって完璧なんだ。
 潜入して一月経った頃、松原からメールが入った。
 水が呼んでいるとの事だ。
 僕は皆の目をかいくぐり、久し振りに施設へと戻った。大きな門が大袈裟な音を立てて開き、例の絨毯の廊下を真っ直ぐ歩いた。
 水の部屋をノックし、名を名乗って返答をまった。

「入れ」

 ユックリとドアノブに手を掛け扉を開いた。
 途端、身体中に鈍痛が走った。
 開いた扉の前に見知らぬ仮面を着けた誰かにみぞおちを思いっきり殴られた。
 床に膝をついた僕にもう一度みぞおちを狙って蹴りが入った。あまりの突然の出来事に頭が真っ白になった。

 

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