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男子会②

   2016年5月11日  

 集合時間ぎりぎりに店に入った諒は、子ども達を連れていた。
 最初こそ明広の勢いに押されていた子どもたちだが、諒の知らぬ間に男子会の中に溶け込み、諒が見ることのできなかった成長を見せるのだった。

 

 
 店に入って諒が明広から手招かれた先は、そう広くない店内の最奥にある座敷席だった。
 左右の手でそれぞれ子ども達と手をつなぎ、急ぎ足でみながそろっているだろう座敷席へと向かう。
 時間の確認をしようと店内を見回してみたが、諒の目には掛け時計だ見当たらなかった。
「遅れてすみませんでした…!ちっ、…遅刻、ですか?」
 息が整わないまま皆に頭を下げて、子ども達を座敷席の縁側に座らせて座敷に上がる援助を行う諒。
 彼の表情は、未だに不安がつきもののままである。
「三分前だ。問題ない。」
 心治からの返答に、諒はほっと胸をなでおろした。
「そんなとこで安心してないで、とっとと上がって座れよ!諒!お嬢ちゃんはおじさんの隣にでも来るか?」
 飲んでないはずだが、明広は明らかに上機嫌でハイテンションなのが見てすぐにわかる。
 初対面の明広に呼ばれて、笑里はすっかり硬直してしまった。
「いきなり驚かせちゃいかんでしょうに。」
 心治の呆れ声と白い目が、明広に向けられる。
「なんだ、お嬢ちゃんも父ちゃん譲りの人見知りか~!」
 心治のお小言なんかに全く耳を貸さず、明広は盛大に笑った。
「すみません、あんまり大人が大勢いるところに連れてきたことがなくって…!二人とも、皆さんのご挨拶して?パパが毎日お世話になってる、レストランの方たちだよ。」
「かたーいっ!」
 諒の言葉を大和の大声が遮断した。
 その大きな声に、今度は小野寺家の三人が皆そろって肩をびくっと震わせた。
「だから驚かせるなって言ってんだろ。学習しろアホ!」
 冷静な声色と表情を変えることなく、心治は大和の後頭部を“パシン!”とかなりいい音を立てて叩いた。
「アデッ!」
 想定外の心治からのつっこみに、とっさに対応できず素直な悲鳴を上げた大和。
「とにかく座れ。話はそれからだ。」
 心治に促され、今の状況に内心全くついていけていないまま諒は開いている席に子ども達を連れて行って座らせ、自分も子どもの座った隙間に愛想程度に座る。

 これで全員集合となり、明広が大きめの咳払いをして全員の注目を集める。
「えー、では初めに。この会に初参加の諒にこの会の趣旨を説明しようと思う!」
 まさかこの会に趣旨があったなんて、想定外の出来事で諒の頭の中が混乱しだした。
「この会は、ピアノフォルテで働く従業員の男性のみの集まり。この会の間は、先輩後輩は一切なし!みんな同じため口で話して、好きなものを食べながら雑談するんだ。会社なんかの“無礼講”とはわけが違う。上辺だけでみんなと付き合う社交辞令とかと比べるなよ?俺たちは仕事仲間でありながら、仕事をを通して知り合った家族なんだ。今回の会に参加できなかったやつを含めて、何でも話せる家族。つまらない事から大事なことまで話しても、誰も他言しないし裏切らない。だからそんな不安そうな顔をしないでくれよ、諒。」
 予想だにしなかった話の流れに混乱していると、顔に思い切り書いている諒。
 それを見て苦笑しながらも、明広は会の趣旨を優しく諒に諭した。
「要するにな、まじめな話したりばか騒ぎするための会だ!」
 会のことを色々と事細かに説明したところで、今の諒はパニックになってしまうのは目に見える。
 会の説明もしたことだし、あとは野となれ山となれ。
 皆に食事の注文をするよう、指示を出した。

 ──なんだかよく分からないけど、とにかく子ども達に何が食べたいか聞かなきゃ。

 若干呆然となりつつも、メニュー表の空きを探す。
 しかし今空いているものはない。
「諒。」
「はいっ!」
 隣に座っている心治から声をかけられ、諒の背筋が一気に伸びた。
「そんなに固くなるな。今日はこの後銭湯に行くから酒は飲めんが、乾杯はするからジュースを頼んでくれ。」
 仕事中よりも、表情も声色も心治はいつもよりも柔らかい。
 心治の雰囲気にのまれ、諒の肩から無駄な力が抜けていく。
「心治さんは、何を頼むんですか?」
 心治から手渡されたメニュー表を会釈して手に取り、それを眺めつつ諒は心治の問うと、なぜか心治から返答がなかった。
 何か癇に障ることを言ってしまったのかと、恐る恐る心治に視線を向ける諒。
 その諒の様子を、心治はしっかりと見つめていた。
「…今日は心治でいいさ。敬語はいらない。」
 なんだか照れ臭そうに心治は諒から視線を外して、ぼそぼそと言いにくそうに言っていて。
 その様子を見てきょとんとする諒の肩を、背後から速斗がガシッと掴んだ。
「そうだよ!今日は敬語なしの日だから。ね?心治くん。」
「…ああ。」
 レストランでも一・二を争うほど上下関係に厳しい心治に、速斗が敬語なしで話していることはかなり衝撃的だった。
 だがもっと衝撃的だったのは、心治がそれを認めたことである。
 開いた口が塞がらないとはこのことだろう。
 大きく開いた目もあんぐり開いた口も、そのままだった。
「今すぐムリにそうしろとは言わないよ。ゆっくり慣れていけばいいから。」
 そう言って速斗は、諒にニコリと微笑んだ。

 

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