幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ノンジャンル

最近の妖魔事情

   

なかなか人が「まやかし」を恐れなくなった現代、いわゆる「魔族」も結構大変だったりする。今までは無視できていたような遊び半分の呼び出しにも応じ、代償となる魂にも高い値を付けたりと、涙ぐましい努力でどうにかやりくりしている状況だ。

そんなある日、日本地区を担当する妖魔、シュウイチ(仮名)は、珍しく呼び出しの依頼を受ける。しかも、かなり本格的な術式であり、依頼者の本気もうかがえる。シュウイチは久しぶりの好反応に、意を決して「出勤」するのだったが……

 

「はああ、暇だな……」
 自室のベッドに寝転がりながら、シュウイチはため息混じりにぼやいた。
 若々しい風貌に、苦労の色が深く刻まれている。
 恐らく、年不相応な雰囲気を有していると人類には思われてしまうだろう。
 もっとも、かなり鼻の利く動物であれば、決して見えないように隠してある羽根や尻尾などの雰囲気も察するかも知れないし、年長者相手の敬意を示してくれるかも知れない。
 何しろシュウイチは、人間の時間にして五百年以上は生きているのである。
 黒い皮膚と羽と尻尾、そして赤い目を持ち、人の作り出した魔法陣を使って気軽にいくつもの世界を行き来する、というのが、シュウイチの属する種族の「特質」である。
「妖魔」と呼ばれる中でも結構な有名どころであり、何でも栄養にすることができる一方、他者が自分に向けてくるプラスの感情が大好物で、そうしたベクトルに向いた人の魂を代価に、色々な「仕事」をこなすのが特徴である。
 一方的に恐れられる存在ではないので、仲間内での地位はさほど高くないが、知名度も地位も抜群に高く、その敬意が何にでも化けられたりする能力にもつながっていた。
 声高に存在を言う人でなくても、頭の片隅では意識せざるを得ない、まさしく妖魔界の花形とも言える存在だったのである。
 しかし、シュウイチはもう長らく、満足いく仕事ができていなかった。
 腕にはそこそこ自信はあるが、まず、呼び出してくれる人がいなければどうにもならない。
 そもそも、こちらに念をぶつけてくれる人間が、今では少ないのである。
 数百年前のヨーロッパでは魔女狩りが横行していた。
 実際悪魔崇拝自体も皆無ではなかったが、身の危険と、「客」が高い確率で危機に直面してしまうという後ろめたさがあり、シュウイチは、島国である日本担当を申し出た。
 長い修行を経て完全な日本語や習慣への適性、そして純和風な風貌すら手に入れたまでは良かったが、ようやく日本においてキリスト教が解禁され、洋風魔術や妖魔に近い学問が入ってくるようになると同時に、いわゆる文明開化の波が押し寄せてきた。
 仏像や寺院すら時には軽んじられ、科学万能主義に突き進んでいく中にあって、本気でシュウイチたちを呼び出そうという人は極めて少なく、一定以上のレベルの術式を踏まえている者はさらに少数だった。
 シュウイチたちにとって、人間界と魔界を行き来するのは、長いトンネルや航路を往復するようなものだが、だからこそ通路はある程度の強度が求められる。
 正式に沿わない呼び出しに応じるのは、ボロボロの道を強行突破するのに等しく、タフな妖魔であってもかなり危険なのだ。
 実際、無理やりに行こうとして消滅してしまった連中もかなり多い。
 さらに言えば、シュウイチが仕事に入るようになってからは、少々きつい状況でも突破しなければ築き上げてきた地位を守れない、そんな局面であるとも言われている。
 人間界で言う「臨時派遣」の立場であるシュウイチならともかく、組織を背負っているベテランたちにとっては、まさにギリギリの勝負が続いていた。
 しかし最近では「危うい依頼」もめっきり少なくなったようだ。何でも、インターネットに掲載された術式が別の「回路」につながっていたようで、数少ない興味がある人間たちも、それとは知らずにまったく別の存在を呼び出すようになってしまっているらしい。
(俺らの方がずっと実績があるのにな……)
 シュウイチは、少し体勢を変え、棚に並べられた本に目を向けた。
「現代紙幣大全第二百版」、「金を求められた場合の注意点」、「国家、地域における美的感覚の差異」……、どれも、人間に呼び出された時、求められる要求への対処や注意についての本である。普段はまったく本を読まないシュウイチでも完全に中身を理解できるぐらいに、徹底した講習が行われるのである。

 

-ノンジャンル


コメントを残す

おすすめ作品

タカラくじ スターダム大作戦(後)

怒りの値段(下)

不思議なオカルト研究部 第三話 酒場の守り神 後編

ヤマナイアメ

会社学校~ゼッピョと一緒~ 第13号