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SF・ファンタジー・ホラー

ウパーディセーサ〈三十三〉

   2016年5月13日  

やはり緋多は使えなかったですね。僕の見当違いでした

 

 
 さて、これからどうしよう。そうだ! 取り敢えず、川尻との親交を深めよう。
「焦響君、お腹へってない? 食堂でお昼食べようよ」
「はい。丁度お腹がすいてたんです」
 川尻はあどけなさの残る笑顔で答えた。彼も家族や大切な人が消え去ったのだろう。その哀しみと、憎しみの中、こんな無邪気な笑顔をみせる川尻に少し同情した。
 食堂につくと、やはり僕はキツネうどんを注文した。川尻は月見そばにしたらしい。席に着き、箸でうどんを手繰り上げ、口にしようとしたとき、川尻が口を開いた。
「緋多さんも大切な人が消えちゃったんですか?」
 手繰り上げたうどんを鉢に戻し、腕組みをして答えた。
「そうだね。僕の場合は両親と弟が消えちゃった。消えちゃったことにさえ気が付かずに何年も生活してたよ。この館に入った途端に思い出したんだ。焦響君もそんな感じ?」
 川尻は暫く月見そばを見つめたまま固まっていたが、視線を落としながら話した。
「僕の場合は、誰も消えてないんです。でも僕の親友がそれを目の当たりにして。僕も人が消えるところを見てしまったんです。それでその親友とも連絡が取れなくなって、不安で不安で……そのときに泉さんに出会って……」
 成る程、彼の場合は身内が消えたわけじゃないんだ。すると何の為にここへ入ったのだろう?
「僕は親友が心配で、一人でいても何もできないし。こんなマンガみたいなこと、初めは信じられなかったけど、今は受け入れられました。僕の意志は固いです。何としても親友を見つけ出すんです!」
「酷なことを言うようだけど、その友達は既に消されてるって可能性はないの?」
「それだけはありません。アイツはこの事件に対して物凄く警戒していたし、僕に気をつけろと忠告してくれた。アイツは絶対にどこかで生きてます。きっと戦ってるんです」
 彼の瞳に固い決心が映っていた。なら僕は何の為に戦うのだろう? そうだ、憎しみだ。大切な存在である家族を奪った恨みを種に復讐するんだ。
 憎しみのあまり、箸で摘まんでいたうどんがプチリと切れ、出汁の中へとダイブした。
「緋多さん……? 大丈夫ですか?」
「あっ、うん。何でもないよ。それより、その友達をなんとしてでも見つけ出そう!」

 僕は小山の行動をよく観察している。特に怪しい点はない。気のいい青年にしか見えない。自分の中の葛藤が心を蝕んでいった。そしてその度に貰った薬の量が増えていった。薬を飲めば活力が湧いてくる。眠らなくても平気になった。
 ある時、小山が呟いた。敵の標的は自分ではないかと……
 僕は焦った。小山の分析能力は高いと知った。
 そして日に日に飲む薬の量が増えていき、ある日幻覚をみた。自分がここの職員を皆殺しにする幻覚だ。僕は自室で天井を仰ぎ笑っていた。声を出して笑っていた。涙が溢れるほど笑っていた。

 暫くの時が経った頃、僕は再び施設へと戻った。川尻の様子が気になったからだ。
 松原の部屋の奥の僕の部署。そこで僕は川尻を待った。ココアを片手に、自分が今まで松原へ送った報告書を読み返していた。
 確かにおままごとだったのかもしれない。子供の絵日記だ。もう少し根を入れて書かないと。しかし僕には文才がないのだ。うーんと首をひねっていると扉をノックし川尻が入ってきた。
 その瞬間僕は立ち上がってしまった。あの愛想の良い川尻の面影はなく、目は魚の様に死んでいた。片足を引きずりボロボロの姿で現れたのだ。

 

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