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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

巣鴨振り込め詐欺殺人事件、その5

   

両親を殺され、好きになった男に裏切られた恵理。
だが、彼女の心は折れてはいなかった。

「両親を殺した犯人を見つけ出す」

その強い意志は無関係であった同じ大学のクラスメイトを巻き込み、詐欺の容疑者である中野の事務所へと乗り込んでいく…!

 

 

 前向きな自分に落ち込みそうになります。両親が亡くなって二週間目に入ったとき、すでに新しい暮らしへの準備は整ってしまいました。次の住まいは決まっていますし、引っ越しの段取りも終了。後は抑えている部屋が空き次第、転居となります。元住んでいたマンションは売却する方向で話を進めていますが、殺人現場ということで資産価値は大きく下落してしまいました。売却をするにしてもローンの補填にもなりません。先日の中野の提案にのどから手が出そうになってしまいます。私の手元には、両親が残してくれた貯金と生命保険、さらに殉職手当もついて相当な額が残されていました。ですが、これらは使ったら消えるお金。手をつけるのに最後の手段としたいのです。マンションの売却についてはぎりぎりまで交渉し、最悪は残されたお金で解決するしかありません。ですが、それ以外の私個人の問題はほぼ解決してしまったのです。
 毎朝位牌に手を合わせた後はこれまでと変わらない生活を送っています。既に普段通り大学にも通い、生活スタイルは以前と変わらなくなったのです。本当はもっと悲しくて、ご飯も喉を通らないし、先のことなんて考える暇もなくて、ただ泣いて暮らすのが正しい遺族の姿だと思います。そうしたいのは山々だったですが、やらなきゃいけないことがたくさんありましたし、それを片づけてからゆっくりと落ち込もう、いっぱい泣こうと決めていたのです。その結果、いつの間にか心も体も正常に戻ってしまいました。たまに気持ちが沈んでしまうことはありますが、それもすぐに元に戻ってしまったのです。食欲は旺盛になりましたし、数日前にはジョギングをしました。将来が不安だからバイトでもしようかとすら思うのです。…こんなの、薄情ですよ。両親の死を忘れるなんて。私は自分が悲しくて泣いてしました。
《恵理、馬鹿なことで悩んでるのね》
 私の悲しい気持ちを、エミちゃんのメールに一蹴されてしまいました。
《守ってくれる人がいないんだから、あんたが先のことを考えて行動するのも当たり前でしょ》
 なるほど、確かにその通りです。ひとまず納得ができたので、私は普段通りの生活をすることにしました。そして今日、事件が大きく動いたのです。それはとても悪い方に。
『またも巣鴨で詐欺事件発生。早朝四時、西巣鴨駅付近を徘徊していた七〇歳女性を警察官が保護。事情聞いたところ、男から株式投資に関わる勧誘があり、二五〇万円を振り込んだとのこと。今年に入り、巣鴨では振り込め詐欺が多数発生。手法としては身内と偽ってだまし取るもの、株式などの融資を持ちかけるもの、還付金詐欺、手法は多岐に渡っており、警察では組織的犯行と見て調査している』
 私が神野さんとデートをし、中野と話してから五日が経過しています。中野は両親を殺したことで安心して犯罪を犯しているのかもしれません。
「なるべく一人で出歩かないように。もし、誰かにつけられていると感じたら俺にすぐ連絡して」
 私にそう言ってくれた神野さんは、もう私に連絡をしてくることはありませんでした。そのため自主防衛のために、一人になる時間をなるべく減らしています。今のところ、中野や千佳につけられている気配は感じません。もちろん、私が気づいていないだけという可能性も十分にあるのですが。《誰かにつけられていないかい》《寂しくないか?》《食事だったら俺が迎えに行くから安心して》神野さんからそんなメールが来ないのかと期待しています。もちろん裏切られたという気持ちは変わらないのですが、あの態度は何かの間違いではなかったか、と期待する自分もいるのです。私の心の中で彼が大きくなっていたことは否定のしようがないので、「もう、愛してくれる可能性はないのだろうか」とつい涙することもありました。これほどまでに愛されることに飢えたこの私が、詐欺事件のニュースで心が変わってしまいました。あまりの悔しさに舌を噛みしめます。もし私が尾行していたあの時に逃げなければ、詐欺の被害に遭う方は出なかったかもしれない。いや、中野を逮捕に追いやって、お父さんやお母さんの復讐を果たせたかもしれないのに。
 私の心には悔しい思いがふつふつと沸いています。この思いは父の影響かもしれません。父は常々、「警察の本当の存在意義は事件を解決する事じゃない。犯罪を起こさせる前に食い止めることだ」と言っていました。父は刑事という職業に向いていない人だったと思います。そのために苦労もいっぱいしてきたことでしょう。そんな父の頑張りをあざ笑うかのように父を殺した人間がいる。犯人への怒りは金髪女に追いかけられる恐怖を悠然と凌駕し、悪と戦う勇気を授けています。相手は所詮小ずるい詐欺師です。ここで引いたら再び誰かが被害にあうかもしれません。私は再び中野に挑むことに決めたのです。そうは言っても、どのように挑めば中野の尻尾を掴むことが出来るのか分かりません。以前彼から名刺を貰っていますが、すでに存在がばれた今、利用価値はないでしょう。どうしたものか、とベッドに腰掛け、テレビを見ながら悩んでいますと、メールの着信が入りました。…中野でしょうか、いえ、もしかして神野さんでしょうか!神野さんであることを期待してメールを開いて見ますと、登録していないアドレスからのものでした。いぶかしながらメールを開いて見ると、タイトルに、《お疲れさま!同じゼミの宮野です》と書いてありました。とてもフレンドリーな文章で、当たり障りのない内容でしたが、宮野が誰なのか分かりません。メールは明日飲み会があるから参加して欲しいというもの。文末に《あのカフェ、俺もよく使うんです。また会うかもね!》という言葉でようやく顔と名前が一致しました。両親が亡くなる前にエミちゃんと行った「カフェ・ローランサン」で会った同じゼミの男子でした。

 

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