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SF・ファンタジー・ホラー

ウパーディセーサ〈三十四〉

   2016年5月17日  

俺は……剛です。山寺剛です

 

 
 空気の読めない春がやってきた。
 あの凄惨な事件から暫くの刻が経った。
 皆、驚く程に普通だ。普段通り任務をこなしている。
 僕にしてみれば、親友を喪い、内通者を見殺しにしてしまった。と云う後ろめたさからか、再び鬱病が悪化した。部屋に閉じこもって、布団を被り震えていた。目を瞑ると、三人の黒い影が僕を嘲笑う。

「眇寨君、貴方は何の役にもたたないわ。私を殺しておいて、いつまでそうやってノホホンと暮らしているの?」

「よう眇寨! お前にあんな話されなきゃ俺はこんな事にはなってなかったんだよ! どうしてくれんだ! お前なんて親友でもなんでもない。早く死ね!」

「眇寨君、君さえウパーディセーサに来なければ……僕は任務を成し遂げれたんだ。君さえ……君さえいなければ」

 みんな……みんなうるさい! 僕はそんなつもりなかったんだ。三月も焦響も弘平君も、皆んな黙れー!

「眇寨君、大丈夫? 声がしたから勝手に入って来ちゃった。あっ、またお菓子の袋をこんなに散らかして。いけないよ、もう」

 鏡がノックもなしに入ってきた。心の声は心ではなく、口で発していたんだ。布団の隙間からそっと覗くと、鏡は黙って散らかった部屋を片付けていた。僕はその姿を暫く黙って見つめていた。
 生温かい何かが頬をなぞる。鼻にツンとやわい痛みが走る。喉の筋肉がきゅっと閉まる……
「どうしたの? ごめん、私なにかイケナイことしちゃった? そんなつもりなかったんだよ。私はただ、眇寨君が心配で……ごめんね、もう行くね……」
 僕は布団という防護服の中で、泣きじゃくっていた。
 鏡が出て行った。
 防護服から這い出て、新鮮な空気を肺一杯に吸い込んだ。
 こらえる涙はどこにもなかった。ただ溢れるがままに泣き叫んだ。

「俺の何がイケナイんだー! 俺が何をしたって言うんだー! 俺だって、俺だって好きでこんな地中に埋まっている訳じゃないんだ! 俺は蝉の幼虫じゃない。人間なんだ。つべこべ言うな! かかってこいよぉ」

 誰に向かって言ったのだろう。行く宛のない哀しみと怒りは、自然と壁へと向かっていた。
 恥ずかしかったんだ。だと思う……
 さみしかったんだ。だと思う……
 鏡にさえ見離された気がして、やるせなかったんだ。そうだったんだ。もう誰も僕に期待なんてしていないだろう。平山も遂に訪ねて来なくなった。宮守の熱い演説が呪いのように付きまとう。
 気が付けば壁に血が滴る程、壁を殴り続けていた。
 鏡にどうして欲しかったんだろう? なぐさめて欲しかったのかな?
「情けないな。馬鹿だよお前は」
 そう、壁が囁いた。
 まったくだ。どうしようもない程に情けない。もうここに僕の居場所はないのかもしれない。そうだ、何処か遠くへ、誰も知らない遠くへ行こう。緋多が残した忘れ物。偽造免許書に書いてある名前、山寺剛として生きてゆこう。どこがいいかな? やっぱり海の近くで波音を聴きながら暮らしたいな。湘南? 千葉?

 

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