幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ノンジャンル

男子会③

   2016年5月18日  

 思いがけず諒人が自立し始め、それを逞しくもどこか寂しく思う諒。
 泣き虫で人見知りな諒人が明広と食事をして手をつないで歩く様子を集団の最後尾から眺めながら諒は感慨深く思うのだった。

 諒の父としての一面は、速斗にとっては自分の追い求めていた父親像に近い。
 愛情深い諒の視線の先の子ども達が羨ましかった。
 しかし諒の話を聞き、自分が父から愛されていたかもしれないということに、速斗はジワリと気付き始めたのだった。

 

 
 昼食をたらふく摂って、各々個別で会計を済ませて全員揃って店を出た。
 言わずもがな一番たくさん食べたのは、明広である。
 お好み焼きのみではなく、サイドメニューの白米を筆頭に唐揚げやフライドポテトと言った揚げ物を何人前かわからないくらい頼んではすぐに皿を空にしていた。
 明広に大食いはいつものことだが、それにつられて小食の諒人もいつもからは想像できない量のお好み焼きとサイドメニューを食べた。
 諒人は店内にいる間終始明広から離れることはなく、明広が注文したものを勧められるわけでもなく自分から食べたがり、明広から食べさせてもらっていた。
 諒人は普段食べ過ぎることなんて一切なく、食べる量も大体一定である。
 それは誰とどこで何を食べていようと変わらなかった。
 家で諒の作ったものを食べようが、ファミレスで好きなものを頼もうが、レストランで高いものを食べようが変わらない。
 値段や味付けに左右されることなく、諒人が食べる量はいつも一定なのだ。
 嫌いなものはないが、特別好きなものもない。
 それが諒と笑里の知る、諒人だった。
 しかしそれが、今日いとも簡単に崩れた。
 諒と笑里は諒人の食事量に目を疑いつつ、そんなに食べて吐き戻さないか心配になる。
 店を出てすぐ、諒は明広のもとへと駆けよった。
 諒人がつまんだ分のお金を手渡したかったのだ。
「諒人がお世話になってしまって…。すみま」
「すみませんとこいつが食った分の代金の支払いはなしだ。仕事中以外で謝るのはなし!もしお礼が言いたいなら、謝るんじゃなくて他の言葉があるだろう?」
 明広は諒の頭の自分の大きな手を乗せて諭した。
 それに肩をすくめはしたが、これは諒の癖である。
 身体に触れられそうになると一歩後ろに退くし、前触れなく身体に触れられるとビクリと背中を震わせて肩をすくめる。
 今までの生い立ちや人生経験上、若干の人間不信になっても不思議ではない。
 それにこれは注意したところで今日や明日に治るものでもない。
 治ることはなくても、個々の人間関係に慣れてビクビクしなくなってくれれば十分。
 今は自分たちが完全に諒の味方であることを、諒本人が心の底から認めて安心してくれることが明広は望んでいる。
「…あ、ありがとうございます!諒人がお世話になってしまって…。でもこの子が食べた分だけは払わせてください。」
 おっかなびっくりではあったが、それでもゆっくりと諒がこちらに歩み寄ってくれていることがわかる。
 明広はそれが純粋に嬉しかった。
「どういたしまして!小食って聞いてたが、結構食べたぞ。お代は出世払いだ!」
 諒ににっと笑いかけ、そのまま自分と手をつないだ諒人に視線を落とした。
 明広を見上げ、視線を合わせた瞬間ニコリと微笑む諒人。
「おじさんみたいにでっかい男になるんだもんな!いっぱい食べてでっかくなれよ!今度はおじさんが作った料理を、腹いっぱい食べさせてやっからな!」
 ニッと笑い、自分の視線の先の小さな諒人に言えば、嬉しそうに頷く諒人がいる。
 いつものひどい人見知りが嘘のようで、諒人の様子に驚きつつも諒としては嬉しいものである。
「なに作ってくれるの?」
 自分以外の大人にあんなに懐いて会話をする諒人の姿が、諒の目にはとんでもなくたくましく映った。
「好きなもの何でも作ってやるぜ!おじさんはコックだからな!」
 そう言いって明広は諒人の顔の高さまで身をかがめた。

 ──ああ…、かわいいなぁ。

 子どもは決して好きなほうではないはずなのに、諒人を見ていると自然と明広ほ心が温かくなる。
「今日はおじさんと一緒にお風呂に入る。」
 諒人の宣言に、明広も諒も一瞬きょとんとしてしまった。
「…え?」
 二人は声を合わせて、諒人に問い直した。
「パパじゃなくておじさんでいいのか?」
 まさかこんなに諒人が自分になついているとは思いもせず、つい諒人に問い直した。
「おじさんとまだいっぱいお話ししたい。ねぇパパ、僕がいなくても寂しくない?」
 後ろで未だにポカンとしたままの諒に、諒人が了承を求める。
「…う、うん!あっくんの好きなようにしていいよ。でもわがまま言ってご迷惑をかけちゃだめだからね。」
 諒からの返答に諒人は嬉しそうに頷き、諒も彼と視線を合わせたまま微笑んで小さく頷いた。
 そして諒は明広の目を真っすぐに見つめて、口を開いた。
「もし差し障りがなければ、諒人と一緒にいてもらってもいいですか?」
 その眼力は、仕事の時のどこか弱弱しい諒とは別人のようにすら思える。
「ああ!任せとけ!」
 自分にはないであろう“父性”を、明広は諒から感じ取った。
「ありがとうございます!」
 自分に礼を言う諒の笑顔と今右手をつないでいる先にいる諒人の笑顔は、やはり親子なのだと思うくらいにそっくりだった。

 

-ノンジャンル
-, , , , , , , , , ,


コメントを残す

おすすめ作品