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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

Egg〜スパイの恋人〜episode7

   

「オメルタ」
 オメルタ=マフィア用語で、沈黙の掟を示す言葉だ。

 不器用な大人のハードボイルドアクション!!

 

 だがある日、俺は突然神父に首を絞められた。曰く、その時教会には神父以外に神父の妻である修道女が住んでいたのだが、この修道女を俺が抱いたというのだ。
 元々修道女は俺の事を酷く嫌っていて、よく神父に追い出すようにと愚痴っていたのを知っている。無論、俺自身もこの修道女の事は嫌いだった。豚の様に白く肥えている割には、やけにめかし込んでいて気持ち悪かったし、性格も酷く歪んでいたからだ。いつも口には真っ赤なルージュを引き、目元はブルーとぼさっとした睫毛で死人のようだった。その上、いつも首からはエメラルドの乗ったロザリオを下げていたのが印象的だ。ガキ連中の間では、魔女と呼ばれていた。
 魔女は決まって、俺を見かけるたびその醜く腐った目で睨み付けては、まだここに居るのか? などと問いかけてきたものだ。
 時折、食事の中に蛙や芋虫が浮かんでいたり、ベッドが水浸しになっていることもあった。あぁ、また魔女の魔法かなんて思ったものだが、そんな俺を哀れに思い、優しくする神父がまた修道女は気に入らなかったようだ。だから、こんな嘘をでっち上げたのだろう。あんな豚魔女を抱くぐらいなら、そこいらの乞食でも抱いていた方がまだましだと思った。
 魔女の嘘を信用した神父に酷く腹を立てた俺は、その晩動かなくなるまで神父を殴りつけ、教会を飛び出した。やはり、神など居ないと再度確信した。

 夢の中でそんな遠い思い出を浮かべ、ふっなんて自嘲した時、そこにあった全てのモノが一瞬にして消えた。
 次に現れたのは、蝋燭でもステンドグラスでも、ましてや神や天使なんかではない、数日前に起こったあの教会での出来事がそのまま再現されていた。リックと女、そして俺が立つ薄汚れたちんけな教会。そして銃口を向ける数名の男達。
 男が囁く。
「ジ・エンドだ」
 そして銃声。銃口から立ち上る硝煙の先には、赤い薔薇を散らすかの如く背後に吹き飛ぶ女の姿。
「……に……げ、て……」
 女の口から言葉と共に真っ赤な液体が、こぽこぽと溢れ出した。
 間髪入れずに二発目の銃声。今度は俺が倒れる番だった。
 胸に焼き付けるような鈍痛と、重くのしかかる瞼。一気に夢へと誘い込ませるような闇が徐々に視界を覆い始めると、そこで俺の夢は終わり、同時にベットから飛び起きた。

「大丈夫?」
 リックが俺の顔を覗き込んで、様子を伺う。
「酷いうなされ様だったよ」
 そんなリックの身体を軽く押し退け立ち上がると、ふと女が居ないことに気付いた。
「リック、女は?」
「さぁ、ラームが散歩に出かけた直ぐ後出てって、それっきり戻ってないよ」
 頭を過ぎる、キーワード。

『バイバイ……』

 あぁ、あれはそういう意味だったのか。
 なんだか、無性に愛しく感じた。それが何かは分からない。わからないけれど、心にぽっかり穴が開いた様な気分を味わっていた。それから、妙に鮮明に残る、あの腕の温もりと感触。
 タバコを吸おうとしたが、最後の一本は吸い終わっていたらしく、ソフトケースだけになっていた。代わりにそれをぐしゃぐしゃと丸め窓から、二人して投げたあの空瓶のように放ってはみたものの、それは放物線を描いただけで海にまでは届かなかった。
 いつしか外には月と、無数の星の影。

*****

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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