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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

巣鴨振り込め詐欺殺人事件、その6

   

詐欺容疑者・中野に学生の情報を売った恵理は、次第に中野のことを知っていく。

中野がどうやって老人を口説くのか。
中野がどうして老人を貶めるのか。

そして彼の過去に何があったのか。

中野が恵理を止める時、二人の知らない事件が浮き彫りになった。

 

 10

 中野が戻ってくるまでに十分もかかりませんでした。彼はバシッとスーツで決めており、一見するとやり手ビジネスマンに見えてしまいます。本当に人の印象とは外見で決まってしまうものだと感心しました。詐欺師がこの世から根絶しない理由がよく分かります。
「じゃあ、巣鴨駅に行くぞ」
 中野は私たちを連れだって外に出ました。特に会話もなく黙々と歩いていましたが、「ちょっと寄るよ」と商店街へ向かいます。
「どこにいくの?」
「手ぶらでお見舞いというのも格好悪いだろ。せっかく若い女子がいるんだ。参考までに選んで」
「意外。そういうの慣れてるはずなのに」
「どうやら浜田さんは俺の何かを知っているようだ」
 そう言って彼はにやっと悪い顔で笑いました。いけません、手の内を明かすところでした。私は話の流れを変えるために宮野君に話を振ります。彼に付けた偽名を間違えないようしながら。
「山本君は七十歳くらいのおばあさんに何を買ったら良いと思う?」
「歯が弱いからシュークリームかな」
 呆れました。彼はおみやげってものに何ら理解がありません。
「いい?山本君。おみやげの原則は日持ちがするものよ。ましてや、相手方の体調もあるから無難なものが求められる。ですが、相手は女性。中野さんという未婚の男性がおばあさんに送るにはある程度の見栄えが必要なのよ」
 中野が私の言葉に感心そうに頷いています。なぜだか不思議と得意な気持ちになってきました。相手が犯罪者とはいえ、男性を説得されるというものに優越感に似た高揚を隠し切れません。私は胸を張って答えます。
「ずばり、花束ですよ」
 その瞬間、がっかりとした失笑が中野から聞こえたのです。そんなにダメな提案でしたでしょうか?中野は慰めるように私の肩に手を置き、「とても参考になったよ。ゼリーの詰め合わせを買っていこう」と言ってきました。ものすごく納得がいきません。老舗の和菓子店で保存が利くゼリーの詰め合わせを買い、山手線で池袋へと向かいます。平日の昼間とあって電車内は快適そのもの。そのため、無言になると沈黙が耳に痛いほどです。沈黙に耐えられなくなったのでしょう。宮野君が話しかけてきました。
「これからお見舞いに行くってことだけど、相手誰なの?」
 私は中野が倒れたおばあさんの人命救護を行ったこと、私が偶然居合わせて走り回ったこと、私がおばあさんに膝枕をして上げたことを簡潔に説明しました。てっきり中野から茶々が入るかと思っていましたが、中野はむっつりと黙ったまま聞き流しています。自分の活躍をお披露目されるのが嫌なのでしょうか。いえ、後ろ暗い理由があるからなのでしょう。
「じゃあ、はまお…浜田さんは相手と直接面識はないんだ」
 今、浜岡と言いそうになりましたが、ギリギリセーフでした。私はたしなめる視線を宮野君に送ります。池袋駅にはすぐに到着しました。平日の昼間だというのに、改札出口はたくさんの人が右から左に、前から後ろへと流れていきます。さすがは埼玉の玄関口です。中野の後に続き、私と宮野君ははぐれないように着いて行きました。
「浜田さん。中野さんは、なんでそのおばあさんがここに入院していることを知っているの?」
「さあ。知らない」
 私がそっけなく答えるには理由があります。おばあさんが救急車で搬送される時に名刺を差し込んだのを見ていました。それなので本当はその理由を知っているのですが、中野がいるので、そのことは黙っておくことにします。中野は無視を決め込んでいますが、彼の口からどんな理由か聞きたいので素直に聞いてみることにしました。
「中野さんはどうしておばあさんの搬送先を知っているんですか?」
 私の質問に、中野は「分かっているくせに」と言いたげな目で私をにらんで答えました。
「本人に名刺を渡しておいたらお礼の電話がかかってきた」
 そのことは彼にとって特に隠していたいことではないようです。てっきり老人からお金を搾取しているのだから、疑いの隙を与えないために貝になるものだとばかり思っていました。そうなって初めて、私は矛盾に気がついたのです。なぜ、中野は私たちをこうしてお見舞いに連れてきたのでしょう。彼は老人の心につけいり、孤独を埋める代わりにお金を巻き上げるヒモのような最低男。私のような女の子がいることも、よく知らない大学生の男の子が一緒にいるのも邪魔だと思うのです。だとすれば…。邪推は私の頭の中でどんどんと頭の中を巡っていきます。立ち止まった私に気づいた中野は振り返り、「何してんだ?もうじき病院に着くぞ。早くしろ」と私をあおりました。

 病院は非常に大きな総合病院でした。受付をすませると中野は慣れた足取りで病院内を闊歩していきます。きっとこれまでたくさんの高齢者のお見舞いをしてきたのでしょう。これまで遺産相続をした経験もあると父の捜査情報にありましたから。今回お見舞いをする「梅津さん」(中野が受付でそう言っていました)は大部屋の一室に入院されています。病室に入った時、梅津さんは読書をしており、そのたたずまいは昔ながらの淑女、といった印象を受けました。

 

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