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歴史・時代

武蔵試し(中)

   

権六に勝ったその夜、熊鬼は荷物のように山奥まで運ばれることに。

山中、ちょうど草木が抜け落ちたような空間の中では、全国各地の宮本 武蔵の偽者が本物と目される「武蔵」らしき男の前で剣を競う「武蔵試し」が行われていた。
 腕自慢で鳴らしただろう偽者たちも、同様の猛者との立ち会い、そして武蔵の技術の前に次々と倒れ、敗者は強制的に「武蔵の弟子」を名乗ることになっていった。

「武蔵」の技の冴えに、思わず感嘆の声を漏らしてしまった熊鬼は、「偽武蔵」であることもあり、そのまま立ち会う形に。

熊鬼の実力を警戒した武蔵は、いきなり二刀流となり、まったく隙のない「陽月の構え」を繰り出してきた……

 

「では、始めいっ!」
「おおうっ!」
 一癖ありそうな逞しい野武士たちが、合図とともに互いに武器を抜き、斬りかかっていった。
 道場での稽古や、あるいは技そのものを見せることを主題とした御前試合とはまったく異なる荒々しさで男たちが交錯していく。
 見合う間など一切ないこの状況では、半端な技など出す余地はどこにもない。
「ぐうっ!!」
「ぬうう……!」
 すぐに勝負はつき始めた。まず倒されたのが、戦いへの覚悟が足りず立ち遅れた者、次いで、特殊な場への適応が足りず小手先の技で捌こうとした者が敗者として地に倒れ伏すこととなった。
 野武士たちが持っているのが木刀や木槍といった訓練用の武器でなかったら、この場は完全に、内臓の入った血の海と化していたことだろう。
 そう熊鬼が思えるほどに、彼らの技はまっすぐで力強い。
 加えて、打刀、剣術ではもっとも一般的な長剣同士での立ち会いが少なかったため、技術が噛み合う要素に乏しかったことも決着の早さにつながっていた。
 いかにもこの技一筋で来たというような居合い使いは、暗闇の中、黒塗りの木を用いた薙刀に足を払われ、剣すら抜けないうちに負けを味わうことになったし、余裕を見せかけていた槍使いは、忍び風の武芸者に石つぶてを投げつけられ何もできないままうつ伏せに倒れてしまった。
 まさに実戦そのものといった雰囲気である。

 

-歴史・時代


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