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星座アラベスク<8>さそり座

   

 さそり座の人は、思いこんだら一途に進む情熱家である。
 この星座は、破壊と再建を象徴する冥王星に支配されている。

 

 戦後の経済界で風雲児と呼ばれた嵐山統一郎には、エピソードが多数ある。
 それらを説明するだけで、一冊の本が出来てしまうであろう。
 その嵐山統一郎も、すでに齢七十。
 さすがに、現役引退か、と最近は思われていた。
 そんな折に、私財を使って《星座文芸大賞》が創設されたのだ。
 嵐山統一郎が、また、妙なことを始めた――。
 嵐山統一郎の説明によれば、小説家になりたかったという若い頃の夢を、このような形で実現する、という事であった。
 賞金は、現行宝くじ一等の二倍。
 この破格な金額にも、人々は驚いたのである。
 賞の名前の《星座》とは、嵐山統一郎が占星術に凝っているからである。
 嵐山統一郎と会う者は、先ずは、自分の星座を言わなければならない。
 そして、占星術の蘊蓄を、延々と聞かされるのである。
 ビジネスの話は、その後なのだ。
 嵐山統一郎は、自伝の中で、占星術が成功を導いてくれた、と何度も書いている。
 自伝を書いたゴーストライターは、さぞかし、占星術の話に悩まされたことであろう。

 《星座文芸大賞》の、第一回大賞に選ばれたのは、野口俊之の『屋島にて』であった。
 都を棄てて屋島へ来た平家の武将と、土地の寡婦の悲恋物語である。
 一介の国語教師であった野口俊之は、一躍、時の人となった。
 授賞式が行われたのは、豪華ホテルとして評判の高いホテル・オリエントのバビロンの間である。
 嵐山統一郎は、受賞者の野口俊之の星座がさそり座であることを紹介し、長々と星占いの話を続けた。
 それから、賞金目録を野口俊之に手渡したのである。
 そして――、嵐山統一郎は、この作品を映画化する、と発表した。
 これで、人々は納得した。
 嵐山統一郎が、趣味だけで、私財を投じるはずはないのだ。
 高額の賞金で釣って、新しい小説を開発する。
 そして、話題性に乗ったまま、それを映画化する。
 映画は、当たれば、巨額のリターンがある。
 嵐山統一郎の狙いは、ここにあったのだ。

 一ヶ月後、同じバビロンの間で、映画制作が発表された。
 金に糸目をつけないで、一流の脚本家と一流の監督が用意された。
 主役の武将には、歌舞伎界の若手を起用。
 テレビに出ている虚名人ではなく、本当の実力を持つ者、という嵐山統一郎の意向である。
 ヒロインの寡婦には、嵐山統一郎の鶴の一声で、桜山美千子に決まった。
 大学生の時に水着のキャンペーンガールから芸能界にデビューして以来、人気を博し続けているタレントである。
 制作発表の記者会見で、桜山美千子は、笑顔で話した。
「こんな大作をいただきまして、本当に光栄です」
 そして、この役に演技者としてのすべてを賭ける、と決意を述べた。
 原作者の野口俊之は、ひな壇の端に、神妙な態度で座っていた――。

 

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