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SF・ファンタジー・ホラー

ウパーディセーサ〈三十八〉

   2016年5月30日  

見て、あそこに鳥が二羽飛んでいるよ。ああやって、風を集めて遊んでいるんだ。

 

 
「眇寨君! 起きて。もう! だからあんまり飲まないでって言ったのに……」
「あれ……鏡。どうしたのこんな朝早く……ウエッ、二日酔いだ。水が飲みたい」
 呆れた顔で僕に水を差し出す鏡。どこか怒っているような、視線を合わせてくれない。いや、僕の視線が定まっていないのか。でもウォッカのお陰でよく眠れたではないか。あれっ? 何のために早く眠ろうとしたんだっけか? 鏡がうつむいている。そうだ! 遊園地だ。
「ごめん! 鏡。ワクワクし過ぎて眠れなかったんだよ。直ぐに仕度するね」
 まずいな……鏡のご機嫌は斜めだ。この二日酔いをなんとかしなくては。そう考えながら急いで顔を洗い、久しぶりにオシャレをした。何とか急ピッチで髪を整え、客間へ向かった。
 客間のソファーに腰掛けそっぽをむいている鏡に、何て言葉を掛けていいのか分からなかった。しかし、鏡はスクッと立ち上がると。ニコリと笑って「行こう!」と言った。良かった。もう怒ってはいないようだ。しかし、あんな形で復讐されるとは思ってもみなかった。

「あははは! 楽しーね眇寨君! クルクル回るよー! もっと回るよー」
 コーヒーカップを楽しげに回す鏡。コーヒーカップの土台は時計回りに回っているのだが、カップ自体を反時計回りに力一杯回す鏡。遠心力に負けた僕はコーヒーカップのヘリにへばりつき、吐き気と必死に闘っている。コーヒーカップの土台がユックリと回転数を下げ、やっと解放されると思っていたのだが、土台が停まっているのにも関わらず回し続ける鏡。
「あはは! 私こんな楽しい乗り物に乗ったの初めて! ねぇ、もう一回乗ろうよ!」
 僕はコーヒーカップから飛び出した。こんな悪夢をもう一度見なきゃいけないなんて、まっぴら御免だ。
「どうしたの? 顔が真っ青だよ? 乗り物酔いしちゃった?」
「いやぁ、普通は酔わないんだけどね……普通の乗り物では……」
 鏡の目は輝いていた。でも僕の目は死んでいた。
 夏の暑い日差しが照りつけるアスファルトの上で、溶けてコールタールになる準備はできていた。遊園地がこんなに過酷な戦場だったなんて。考えてみれば、女の子と遊園地になんて来たことなかった。幼い頃、父と母の手を握り、ジェットコースターの身長制限に頭二つ分足りなくて、すねて泣いたっけ。そう思うと遊園地なんて何年ぶりなんだろう? 少なくとも十数年は経っているだろう。
「はい! 眇寨君の大好物」
 鏡は透明な汗を掻いたオレンジ色の紙コップを手渡してくれた。ストローで中身を吸い上げると、口の中に爽快な刺激が訪れた。一口飲み込むと、優しい甘さがなんと表現したら良いものか。何にも似付かわぬ味。これはあれ以外何物でもない……コーラだ。
「ありがとう、鏡。おかげで生き返ったよ」
「だって眇寨君、干からびて死んじゃいそうになってたから。これに懲りて少しはお酒控えてね」
 クスッと肩を震わせて笑った。その素振りが、とても女の子らしく、どこか愛らしく感じた。しかし僕が死にかけていた理由の根源が鏡の乱暴な運転によるものなんだが……
 さて、やっと体が元気になってきた。こんな夢みたいなシチュエーション、楽しまずしていられるか!
「さぁ、生き返ったことだし! 早速あれに乗ろうよ。俺、小さい頃からの夢だったんだ」
 僕の指差す方向には、轟音と共に急傾斜を滑り降りる、俗に言う「ジェットコースター」がある。
 乗っている人たちはキャーキャーと悲鳴をあげている。僕たちはその行列に並ぶとワクワクとした期待と、ドキドキとした恐怖にサンドウィッチされた。
「あれってきっと見ているよりもきっと体感するスピードは早いよね……」
 スクッと肩をしぼめてみせる鏡に堂々と言ってやった!
「大丈夫! 心配ないよ。さっきのコーヒーカップに比べたらどうって事ないさ!」
 あれ? 少し口が滑ってしまったかな? 鏡はジッと僕を睨んでいる。どうしようかとアタフタしている僕を見て、鏡は緊張の解けた笑顔を見せた。

 

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