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SF・ファンタジー・ホラー

ウパーディセーサ〈三十九〉

   2016年6月1日  

そんな簡単にサヨナラ言われるとやるせなくなるぜまったく。帰って来いって、大洋村で言ったよな。そう簡単にお前を手放すことはできないぜ。さぁ、帰ろう……

 

 
 悶々とした気持ちのまま、観覧車を後にし、夕食は何にしようか? と、そこらにいる普通のカップルのような話をしていたときだった。
 いつぞやに感じた背中にのしかかる重い感覚。足が動かない、肩が重い。自然と僕は地べたにひれ伏す形をとっていた。
「眇寨君! どうしたの?」
「急に全身が重く感じるんだ。前にもあった。これは……」
 そう思った途端、体にのしかかかっていた重しが取れた。しかしこれは焦響のマンション事件のときと同じだ。何とか立ち上がった僕は辺りを見回した。するとどうだろう。さっきまで何の変哲もない平和な遊園地に何処か闇を感じる。目を凝らして見てみると、売店の売り子の男性に目が止まった。そして僕は自分の正気を疑った。何故ならそこには僕の唯一無二の親友、焦響が荒んだ目でこちらを睨んでいるではないか。
 僕は駆け出しそうになった。生きていたんだ! あのとき原始分解された筈の焦響が……
「待って! 何だか様子がおかしいわ。あの売店の男、確かに眇寨君の親友の顔をしているけど、後ろを見て」
 鏡が手をグッと引っ張って僕を止めた。ユックリと後ろを振り返ると、観覧車が沈む夕陽に暗く浮かんでいる。その係員の顔を見てゾッとした。それはまたしても焦響であった。
「ほら、メリーゴーランドの係員もジェットコースターもコーヒーカップも皆んなあの人よ!」
 焦響の顔をした数名が、ユックリと四方からジリジリと間合いを詰めてくる。確かに焦響はあの時死んだんだ。生きているはずがない。それに本当の焦響は僕にあんな顔はしない筈だ。
 あれは焦響なんかではない。前に平山と話していたクローンなのだ。それにこれはまずい。幼い頃からあいつの運動能力はずば抜けていた。身の軽さ、持久力、耐久性、腕っ節。全てに関して僕よりも確実に長けている。どうしよう……逃れる手はない。
 ただ鏡を、僕の大切な鏡には指一本触れさせない。僕が守ると約束したんだ。
「ねぇ鏡、今すぐ敦さんに電話して、エレベーターの施錠を外すように言って。早く!」
 どうして? と尋ねる間を与えずに次の指示を出した。
「今、あの焦響が出てきた売店の奥に小さな食品用のエレベーターがある。それは僕たちの基地に繋がっているんだ。だから、僕が奴らを引きつけている間に走るんだ。後ろを振り返らずに。できるね?」
 僕の声は震えていたかもしれない。でも覚悟はできていた。鏡を何としても守ると。
「そんなこと……眇寨君はどうする気? 私、嫌だよ。眇寨君を放っておくなんてできない」
「大丈夫だよ、鏡。さっき言ったよね! 君を守るって。今度は俺の番だ。なぁに、心配ないさ。二人でここを突破して基地の入り口まで行くのは不可能だ。だから、鏡は先にエレベーターで。俺は何とか彼らをまいて、基地の入り口から戻るから心配ないよ。俺が合図したら全速力で売店まで走るんだ。できるね」

 

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