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星座アラベスク<9>いて座

   

 いて座の人は、自分の気持ちに正直に行動する。
 豊かな才能に恵まれており、成功が約束されている。

 

 青年シュリーマンは、この三日間、イスタンブールの街を歩き回った。
 ただひたすら、あてどもなく、さまよい歩いたのだ。
 泣きながら……。
 そして今、ガラタ橋のたもとで、夜空を見ていた。
 ボスポラス海峡の海の上には、いて座があった。
 いて座は、半人半馬のケイロンが天に昇って出来た星座である。
 ケイロンは、クロノスの息子であり、アキレウスの師。
 ギリシャ神話を愛読しているシュリーマンにとっては、当たり前の知識であった。
 いて座を見れば、こうした知識が自然に思い出されるはずであった。
 だがシュリーマンには、いて座が見えなかった。
 目が涙で溢れていたから……。

 シュリーマンの生涯を決定したのは、父親から貰った絵本である。
 その絵本には、巨大な木馬を広場に引き入れるトロヤの人々が描いてあった。
 有名なトロヤ戦争の絵本なのだ。
 幼いシュリーマンは、この戦争の話に夢中になった。
「ねえ、お父さん。トロヤ戦争って、本当にあったの?」
 父親の、次の一言がシュリーマンの心に刻み付いた。
「もちろん、あったとも」
「大昔には、こんなにすごい英雄が、沢山いたんだね」
「そうだよ」
「トロヤの町って、どこにあるの」
「今はもう、分からなくなってしまった」
「僕……、探してみたいな……」
「それはいいね」
 そして、この後に続いた父親の言葉を、シュリーマンは、一生涯、噛みしめるのであった。
「大人になると、夢を忘れてしまう人が多い。小さい頃の純粋な夢は、忘れさえしなければ、いつかは叶う……」
 シュリーマンは、僕はトロヤの発掘をする、と心に決めた。
 そしてそれを、幼なじみのミンナ・マインケにも、宣言した。
「いっしょに、トロヤの発掘をしようよ」
「いっしょに?」
「うん」
「私をお嫁さんにしてくれるの」
「そうだよ」
「嬉しい。待っているわ」

 

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