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男子会⑤

   2016年6月1日  

 脱衣場を経てようやく浴場にたどり着き、速斗と諒は並んで身体を洗い始めた。
 速斗が抱えていた父への思い。
 それが諒の言葉で徐々に溶けていく。

 

 
 脱衣場にたどり着くまでは、何の問題もなかった。
 それはそうだ。
 歩いていただけなのだから。
 脱衣場の前までやってきた時点で、諒は心治の肩車に乗っかった笑里に男風呂に一緒に入ることを勧めると笑里はいつになく快諾した。
 最近では“女の子だからイヤ!”と、性別にこだわるようになっていたのに今日は関係ないようだ。
 全員男風呂ののれんをくぐると、諒の想像以上に広い脱衣場が現れてその広さに諒の足が止まる。
「どうした?」
 皆が歩き始めたのに諒だけ立ち止まったままだったから、大和がすぐに諒のもとに歩み寄って声をかけた。
「ここにいる人みんな一つのお風呂に入るのかと思うと、なんだかびっくりしちゃって…。」
 純日本人のはずの諒だが、なぜだか日本古来のものには不慣れである。
 そのことがなんとも不思議ではあるが、もっとわからないのが不慣れな父親をさて置き子ども達は案外なんでもサクサクやってしまい溶け込むのも早い事である。
 それは彼らが子どもだからなのだろうか。
「とにかく行こうぜ!家の風呂とやることは変わんないからさ!ただ家よりでっかい風呂ってだけだ。楽しいぞ!ほらっ、行こう!」
 大和の言うと通り、家の風呂でも銭湯でもすることは同じである。
 諒は大和から半ば強引に腕を引っ張られて、引っ張られるままに脱衣場の中へと入っていく。
 色々説明したところで、訳が分からなくなるのも要領が悪い。
 ここは大和のモットー“百聞は一見に如かず”を実行して正解だろう。

 今日が日曜の夕方とあって、脱衣場にいるだけの人数だけでも結構な数だ。
 見渡した限り半分はおじいちゃんである。
 あとは父子だったり単独での入浴だったり、見れば見るほどいろんな人がいる。
 その当たり前が、諒にとっては新鮮なのだ。
 服を脱ぎながら、周囲を見るのに余念がない。
 幅広い年齢層に加えて、外国から来たであろう日本人ではない人も数名いる。
 見れば見るほど諒の興味が無限に湧く。
「何見てるの?」
 服を脱ぎながら、速斗は諒に声をかけた。
「この空間にはいろんな人が集まってるなって。ここにいる人みんな、偶然集まった他人なんだって思うとすごいなぁって思えてくる。」
 たまにだが諒は無自覚状態で詩人になる。
 格好つけの人が言えば寒くなっておしまいだが、素直な感想を言っているからだろうか諒の言葉は気持ちよく身体に入ってくる。

 ──この人の感性ってすごく独特だな。

 常々そう思っていたが、それを押し付けるわけではないから速斗にとってはそれが妙な心地よささえ与える。

 服を脱いで番台のおばさんから受け取ってレンタルのタオルを片手に、みんな揃って浴場に入る。
 ドアを開けるとむわっとした温泉の蒸気が肌を撫でていった。
 まずは身体を洗う。
 人が多いから各々空いている洗面スペースに入ることになった。
 子ども達は諒といくのではなく、引き続き一緒にいる大人たちと行動すると意思表示して散っていった。

 ──ひとりで体を洗うのっていつぶりだろう…。

 子ども達が自分でない誰かと交流を持ち、自分から離れていく。
 それは嬉しい事ではあるが、同時に寂しくもあり諒の胸中は複雑な思いが渦巻いていた。
 空きの洗面スペースに入り、シャワーの蛇口をひねったところで、速斗から声をかけられた。
「諒君、隣で体洗ってもいい?」
 速斗は諒に聞きたい事があった。
「うん!どうぞ!」
 ニコリと微笑み諒は速斗を受け入れた。

 

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