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SF・ファンタジー・ホラー

ウパーディセーサ〈四十〉

   2016年6月3日  

ここは永遠の入り口。お前は永遠の泉になることは許されない。直ぐにここから立ち去れ

 

 
 明日は誰にでもやってくる。その明日に絶望を感じて逃げ出しそうになる。
 今手元にあるこれだけの物で何ができる? 
 そうして気がつけば暗闇に浮かぶ月をぼんやりと眺めているのだ。
 風がそよぐ草原に裸足の天使が駆け回る。鬱蒼と茂る大森林からは琅琅と名もない鳥たちが囀り合う。一つ声を漏らせば全てが消えてしまいそうな。
 そんな曖昧な次元の世界。彼岸と此岸に挟まれた色のない世界。
 人間なんてこんなものか。死も生も、頑丈なコンクリート塀で囲われている。結局何もできはしないんだ。恋する者に愛を告げ、愛した者に恋をする。果てのない悲しみに未練を抱き、過去も未来も入り混じる。
 僕が人間だった頃、それは一体どんな気持ちだったのだろう? 光の欠片になった今は何も分からない。
 知らない光が近寄ってくる。僕はそれらを避けて通る。辺りを見渡せば、無数の光が集まりまるで川のようだ。一つの光が声を掛けてきた。
「どうしてお前はこんな所にいるんだ」
 するとその声を聞いた他の光たちが僕の周りを取り囲んだ。
「ここは永遠の入り口。お前は永遠の泉になることは許されない。直ぐにここから立ち去れ」
 何が一体どうなっている? もうすぐ入り口だというのに、集まった光たちは僕を押し返した。
 誰もいない草原に一人残された僕は、寂しいという感情があることに気がついた。
 小さなネコジャラシのような草が風に揺らぎ、大きなオレンジ色の胞子を振りまいている。
 どうして僕だけ取り残されたのか。僕の頭の中に残るたった一つの記憶、意志、恐らくは使命。それは〝永遠の泉になれ〟であった。他の光たちは遥か向こうに列をなしている。もう一度、その列に向かおうとしたとき、大地から響く声がした。
「まだ行くには早過ぎるわ。貴方の残してきたもの、それに終止符はまだ打っていない。貴方を待つ者、信じる者。それを裏切る者に永遠の泉になる資格はないの。だから、早く戻ってあげて。あの子が壊れてしまう。強そうに見える人ほど脆いものよ。それは貴方が一番分かっていることでしょう。さぁ、振り返って。身を委ねて。貴方を呼ぶ声に応えてあげて」
 ユックリと後ろを振り返った。遠くの方で人が何か叫んでいる。しかし聞き取れない。何を僕に伝えようとしているんだ。
 もう少し近づいてみよう。そしたら聞き取れるはずだ。

 

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