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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season12-1

   

 芸能事務所のマネージャー真野は新人女優のキサラの身を守ってほしいと依頼してきた。

 脅迫されている。その証拠を携帯電話の画面で見せてくれた。小柴はストーカーかと思ったが、とんでもないものだった。

 爆弾だった。青、赤、黄のパッケージの小包みに入れられた爆弾。芸能事務所の一室が爆発したという。

 重症者は芸能事務所の社員ひとりだけだった。なに狙いなのかは不明だった。
 ニュースになった事件だが、誰宛てかは伏せていた。それが新人女優のキサラだった。

 女優になるために交際していた彼と別れることになる。中学からの同級生だ。その彼が社会人となってある事件の首謀者となった。

 それを機にふたりは別れた。

 真野がいうには社長はキサラが命を狙われていても、人気がある以上隠すわけにはいかない。そこで真野はボディーガードをつけることでこれを承諾した。

 そのための依頼だった。

 

 氷室探偵事務所に訪れたひとりの女性。見るからに依頼人だ。

「こんにちは…」

 真野 政子(まや まさこ 35歳)。黒髪のセミロング。知的でインテリジェンスが際立つ黒縁の眼鏡。痩身な体形でダークスーツを着こなしている。靴まで黒色で仕事がら動き回るせいかローファーシューズだ。踵が擦り減っている。サマンサタバサの手提げバッグがいつまでも若者感を引きずっている。35歳だ。

 悪いとはいわない。人の趣味は多種多様だ。ただ小柴はちらっとバッグを見て憎たらしくにらんだ。

 彼女は芸能事務所のマネージャーだというが、一見すると鏡に映したかのように小柴と真野は彷彿しているところがある。

「そうですか」似た者同士に感じたのか、小柴はいつになくクールな表情で訪問者と対面している。

「私は以前女優を目指してました。高校生くらいからちょい役でテレビドラマやコマーシャルの脇役で活動してました。雑誌もモデルでやってました。でもどれもこれも人気がでなくて…けっきょくあきらめて事務所の運営側に席を置きました」

 淡々と話す真野に、小柴は目を細め表情ひとつ変えずに傾聴していた。
「そうですか、とても美人だと思いますが…、厳しい世界ですね。芸能界とは…」小柴は憧れもないように言った。

「あ、ありがとうございます。たしかに厳しい世界です」真野は訪問してはじめて微笑んだ。「ですが、プロダクションの社長やオーディションしたときの評価は、どうも扱いにくい美人、と言われつづけたことが私のトレードマークとなってました」

「扱いにくい美人?」小柴は首を傾げた。「妙な言い方ですね。ある意味、遠まわしの断り文句のように感じますね」

「はい、そうですね。私もそう思います。でも、事務所はどんどん人材をスカウトして私よりも年下の女の子たちが入ってきて、その子たちに助言したりすると、すぐにオーディション受かって抜かれてしまって…」うつむく真野だった。

「そうですか。それはそれは…」言葉のかけようがなかった小柴。だが、あることに気づいた。「あなたは裏方のほうがむいている。だからマネージャーに?」

 真野は顔を小柴にむけた。その表情は明るいものだった。「そうです。主役よりも脇役よりも裏方なんです。どうも人を育成することの方がむいていることに気づいて、23歳でマネージャーに転職しました。次々に若い子たちがテレビに出て活躍するようになりました。事務所の社長も驚いてます。私は先生向きなんだと」

「ええ、そうですね」小柴は共感するだけだった。

「でもスポットの当たらない女優じゃない情けない女なんです。って社長にいったら事務所の経営にひとやくかっている。それがおまえの才能だったなって喜んでくれました」

「そうですか…」小柴はすでに飽きていた。探偵事務所だ。ここは心理カウンセラーではない。

 満足げに微笑む訪問者だった。

「それで本日の訪問理由はどのような?」

 思い出すように依頼人ははっとした。「そうです。それで私が担当して手塩に育てている若い新人女優がいまして。これまでにもないほど人気がでている子なんですけど、このあいだ脅迫されて…」

 そういうと真野はサマンサタバサの手提げバッグを漁りだした。「これです」

 携帯電話をとりだし、画面に映し出されたものを小柴に見せた。

「えっ、これは…」小柴もこれまでの話の流れからするとストーカーまがいの嫌がらせだと思ったが、とんでもなかった。

「はい、爆弾です」真野は平常心を装っていた。幾度もここにくるまでに心を乱されて、掻き乱されていただろう。そしてひとつの解決策として探偵事務所のドアを叩いたのだ。

 小柴は詳細を聴いた。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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