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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

巣鴨振り込め詐欺殺人事件、その8

   

犯人は捕まった。
犯罪組織も裏で引いていたやつらも逮捕された。
もうすべての問題が片付いた…

かのように思われたが、表に出なかった最後の裏切りが中野の口から告白される。

金の亡者が地に堕ちた、かのように思われたが…。

すべての事実、そして中野の思いを知った時、恵理は…。

巣鴨で広げられた一連の犯罪に終幕が下ろされる。

 

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 この世の中、腑に落ちないことばかりです。誰も彼も、自分のことしか考えていないということが、この三日間で身にしみてよく分かりました。それだけこの詐欺事件の反響が大きく、その解決がドラマチックだったのでしょう。一般市民の方々がこの事件に注目する気持ちは分からないでもないのです。ですが、悲劇のヒロインに祭り上げられた身にもなってみてください。有難迷惑という言葉以外に表現のしようがないこの現状を、いったい誰が救ってくれるというのでしょうか。千佳ではありませんが、口だって悪くなりますよ。くそったれ。
 感謝状授与式以降、私は埼玉の叔母の家にお世話になっていました。ウィークリーマンションには取材陣が詰めかけています。とてもではないのですが、日常生活はまったく送れない状況になってしまったのです。しかし、それは叔母の家に避難しても大きく変わらないことでした。こちらでも叔母の家の周囲は報道陣で埋め尽くされてしまい、すっかり大騒動となってしまっているのです。叔母とそのご家族に対し申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまい、私の気持ちはすっかりしょげていました。私は両親が亡くなった直後の生活のように、しっかりとカーテンを閉め切った一室で、ふて寝ばかりをして過ごす日々を続けました。そんな折、一本の電話がかかってきたのです。しかも、その電話は私の携帯ではなく、叔母の家の引かれた電話にかかってきました。その電話に出た叔母は、これまでの心配顔が嘘のように、笑顔で私のところにやってきたのです。
「恵理ちゃん。これから旅行に行きなさいな」
 私はあまりにも唐突な提案に驚き、いつも叔母さんにしている丁寧な口調を忘れてしまいました。
「は?これから?どこへ?」
 私のフランクな言葉遣いに対して、叔母は一切気にも留めることもなく、ニコニコと笑って答えました。
「九州よ。福岡。ここにいたんじゃ大変だもの。気分転換に行ってきなさいな」
 そうですよね。叔母の気持ちはよく分かります。私のような存在は非日常生活の元凶なのですから。私がここにいても不利益しかもたらしませんので、できるだけ遠くへ行って欲しいというのが本音なのでしょう。ですが、なぜ九州なのでしょうか。先祖代々、九州には縁がありませんし、第一、このような異常事態の中では、さすがの私も一人旅行は怖いのです。私の不安を読みとったのでしょう。叔母は実にいい笑顔で私をさとします。
「大丈夫よ。この旅行では良い人が同行してくれるから」
「良い人?」
 その言葉を言った瞬間、叔母の表情に邪推の笑みが浮かびました。その点は「さすが我が母の姉妹」といったところでしょうか。いやらしい笑い顔がそっくりです。この「良い人」が指す者とは、きっと中野のことでしょう。叔母は中野の過去を知らない上に、感謝状授与式での中野の好青年ぶりを目の当たりにしています。また、授与式の最中に中野が私を気遣う様子を見ていたので、彼が私に気があると勘違いしたに違いありません。しかし、なぜ福岡なのか。その答えは父の捜査資料の中にありました。中野は幼少から十七歳まで福岡で過ごしていたのです。おそらく叔母は中野本人から「地元が福岡である」ということを聞いていたのではと思います。そうでなければ、さすがに今の四面楚歌の状況にある私を、無責任に放りだしたりはしないと思うのです。叔母のもくろみとしては、中野のご家族に私を預けて安心すると同時に、中野の親御さんに挨拶してきなさい、というイタズラ的な配慮があるのでしょう。その無駄な配慮に対して腹立たしく思うと同時に、「挨拶をするのなら、岡田千佳の養父母さんになるのかしら」などと考えてしまいました。こんな自分が嫌でなりません。このぶつけようのない感情を、私は文句の塊とも言える長文でメールにしたため、中野本人に送りつけたのです。ごめんの一言でもあればいいのに、彼からの返信はありませんでした。
 ただ、ぶーぶーと文句を言っても何も始まりません。いずれにせよ、ここを出るというのは、ここに住む全員にとって良いことなので、私は急いで身支度をしました。中野がここに迎えにくるのは深夜二時とのこと。おそらく取材陣との鉢合わせを防ぐという中野の配慮なのでしょう。それまでの間に準備をし、荷造りが終わると私は仮眠をとろうとしました。ですが、なかなか寝付けないまま、待ち合わせの時間を迎えてしまいました。若干寝不足でフラフラしながら外に出ます。外は星が広がり、赤い満月が浮かんでいました。その月明かりの下になんと一台の超高級車、シルバーのポルシェが止まっていたのです。私が外に出てくるのを待っていたのでしょう。私を迎え入れるように、窓がウィーンと下がっていきます。ああ、中野になんて声をかければ良いのだろう。叔母のせいで婚前旅行という意識が芽生えてしまい、顔がカッカと熱くなっています。開いた窓から、棘のある声が聞こえてきました。
「あ?なに、ぼうとしてんだよ。さっさと乗れよ」
 千佳でした。

 

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