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SF・ファンタジー・ホラー

ウパーディセーサ〈四十一〉

   2016年6月7日  

俺はなぜ独りで海に来たのだろう。潮風が髪を扇ぎ、磯の匂いが鼻につく。晴れ渡る四月の空は海と同じ色をしている。波は力強く水面に叩きつけ、高い空にトンビが旋回している

 

 
 俺はなぜ独りで海に来たのだろう。潮風が髪を扇ぎ、磯の匂いが鼻につく。晴れ渡る四月の空は海と同じ色をしている。波は力強く水面に叩きつけ、高い空にトンビが旋回している。
 誰かと約束をしていた気がするんだ。大切な誰かと。
 ある日を境に、俺の心にはぽっかりと穴が空いた。充実していると思っていた毎日は、実は虚無の夢だったようにも思える。
 朝、目覚ましの音で目が覚め、無言で朝食を摂る。温かいアールグレイを飲み干し、出勤の準備をする。すると足元に何かを感じる。名前も知らない小さな犬が俺の足に絡みつく。その犬はまん丸の瞳で俺を見つめる。きっと腹がへっているのだろう。
 俺は犬なんて飼った覚えはない。だがキッチンの戸棚を開けると、綺麗に整頓された大量の犬の缶詰が現れる。俺はどうかしてしまったんだ。
 会社へ行く電車の中でおもむろに携帯電話を取り出し、撮った写真を見返した。三年前の写真に犬が写っている。ということは、少なくとも三年間は俺の家にいたってことだ。なのに記憶がない。そして写真はすべて俺と犬のツーショットである。俺は人に頼んでまで写真を撮ってもらう性格ではない。それに、いったい誰に撮ってもらったんだ? 謎という暗雲が立ち込める。
 三年前といえば、俺は自衛隊にいた。幼い頃からガキ大将で、言葉で相手にかなわないから、すぐに暴力を振るう性分だった。でも弱い者いじめはしなかったと思う。自分が信じた正しいことを全うした。運動神経にも自信があった。持久力と体力で俺の右に出る者はいない。それに五○メートル走は五秒台だ。そんな俺を見て、高校の進路指導の教師が自衛隊へ行く事を勧めた。
 防衛大学校へ行く事も考えたが、クラスでも成績最下位の俺が大学合格までの長い道を歩めるはずがなかった。

 

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