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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

Egg〜スパイの恋人〜episode10

   

「へぇ、この会社は訪ねてきたお客人にいきなり銃口を向けるんだな。入り口の受付のおねぇちゃんとは、大違いだ」
 皮肉でも言わなきゃやってられない。

 不器用な大人のハードボイルドアクション!

 

 最上階180Fを押して、無意識に溜め息を吐いた自分に気付く。
 そう、ハッタリがどこまで通用する相手かは分からない。それでも、生きて帰れる可能性が少なからずあるのであれば、それに賭けてみない理由は無い。
 マグナムの状態を確かめてみる。無駄な行為と分かっているのに、何かしていないと落ち着かないのだ。弾倉には弾も一杯だし、シルバーに輝くボディには曇り一つ無い。グリップに違和感も無ければ、標準に乱れも無い筈なのに、いつもよりずっしりと重く感じるのは俺の気持ちか。
 そんな俺の気を無視して、エレベーターは最上階に到着。チン!と軽いベルが鳴り響き、扉が開く。2回程深呼吸を繰り返してから、一歩踏み出した。と、同時にエレベーターの扉が閉じられて、ちょっと驚く。何をビビってんだと自分に喝を入れなおすと、社長室に向けて廊下を歩み始めた。
 己の心とは正反対に、手垢一つ無い大理石の壁が続く。そして床を埋め尽くす清潔感溢れるグレーのカーペットに汚れはなく、時折置かれた高そうな大きな花瓶には溢れんばかりの真っ赤な薔薇が飾られている。
 右奥と言われたが、俺の乗ったエレベーターからは直ぐだったらしく、迷わず到着した。木目の揃った茶色の扉は金で装飾され、小さなダイアの埋め込まれた金プレートには〝社長室〟と掲げられている。金色のドアノブに手を掛けたまま一瞬躊躇う。が、いつまでもこうしてはいられない。覚悟を決め、ゆっくりとドアノブを回した。
 そして、最初に俺を出迎えてくれたのは、無数の銃口であった。
「へぇ、この会社は訪ねてきたお客人にいきなり銃口を向けるんだな。入り口の受付のおねぇちゃんとは、大違いだ」
 皮肉でも言わなきゃやってられない。
「貴方こそ、部屋に入るときはノックぐらいしろと教わらなかったのかしら?」
 貪欲な女の声がした。少し低めで、自信に満ち溢れた声。なんとなく寒気を覚えた。
「生憎そんなに育ちが良くないんでね」
 どでかいディスクの向こうで、女が椅子に座ったまま微笑を浮かべて言った。
「そうでしょうね。まぁいいわ。初めまして、Mr.ラミングウェイ・ダークィン。私が、社長のジュディエッタ・グラッチンよ」
 イタリア訛りの英語が響く。
「ほぅ、俺達のトップが女だったとはね」
「あら、うれしい?」
 金色にウエーブ掛かった髪と、真っ赤なスーツ。胸元まで開けられた濃い色のブラウスから覗く肌は白く、下品なまでに感じる胸の谷間が俺の癪に障る。口元に塗られたルージュは、まるで人を食った様だ。
「お生憎様。俺は、年増は趣味じゃねぇんだ」
 ジュッディエッタが鼻でわらった。
 そして指をパチンと鳴らす。
「鼠が2匹。これで3匹ってところかしらね」
 黒いスーツの男達に引き摺られて出てきたのは、リックと女。二人が投げ捨てられるようにして、俺の側に寄せられた。
 女社長は言う。
「貴方達は会社の為に、有能に働いてくれた。感謝してるわ。だけど、少しばかり仕事をしすぎちゃったの。それからそこの女、余計な事してくれて。どれだけの損害が出たか分かってるのかしら?」
 女が声を張り上げた。
「ふざけるな!! 大量虐殺、戦争、全てアンタの理想である〝独裁〟化の為だろ?! アンタの贅沢一つの為に、世界がめちゃくちゃになるって解ってない訳?」
「……独裁の何が悪い? 戦争の何が悪い?」
 女社長の凍てつく笑いがこだました。
「解ってないのはアンタでしょ? ドブ鼠の分際で偉そうに。戦争はね、立派なビジネスよ。私の為に世界がどうなろうが関係ないの」

 狂ってる。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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