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SF・ファンタジー・ホラー

〈No.Glasses〉

   

 あいよ、そう言って所長は大きな体を丸めて出ていった。カチッと検査室のロックがかかる。後ろ姿が遠のくとほっとして、冷めたカフェオレを一気に飲み干した。今晩の所長はおかしい。所長が来てから何かがずっとひっかかっているのだが、それが形になる前にすべて掻き消されている。どうにもすわりが悪かったが、今は廃棄処理を行う方が先だった。
 カウチに付属しているスロットからメモリースティックを排出すると、照明を落とし、小さく細長いそれをデスクのスロットに挿入する。彼女が見て、聞いて、得た厖大な記憶が、何十万枚もの光を放つ小さなフレームとなって樹脂ガラスいっぱいに映し出される。
 いつもは廃棄の赤いラインを表示させ、専用のダストシュートに放り込むだけなのだが、所長がやけにこだわるNo.Glassesを廃棄する前に改めて見ておきたかった。
 音がなく、歪んだフレームとなった彼女。彼女の視線が移動するたびにいくつもの光景があらわれては消えていく。【ニンカロ】と形が似ているドーム。雑多な街並み。忙しそうに通り過ぎる大勢の人。あれがてくぐらだろうか。二つレンズがついた物に触れる細い指。空にまで届きそうな巨大な建物。それから、本物の空。けれどやはり退屈だった。所長はこれのどこがいいんだろうか。
 スクリプト崩壊の影響で、フレームは虫に喰われたように真っ黒に染まり、次々と消え去っていく。ふと他のフレームより速く消えるものに気づいた。風景、特に日が落ちた後のフレームが他のに比べて異常に速い。これが記憶の再生拒否だとでもいうのだろうか。今まさに消えようとしている日没フレーム。そのフレームに近寄ると、大人びた姿の女性がショウウィンドウに映り込んだ。
「これって……」
 映り込んだ女性は、この記憶の持ち主の彼女だ。慌てて他の日没のフレームを全部集めると、すべてのフレームに様々な年齢の彼女が映り込んでいた。決して主観では見えないはずの彼女。けれど、夜になり、明るい室内からガラスを通して外を見ると光の加減でガラスに自分の姿が映り込む。この部屋でも起こることだった。けど、それなら鏡だってあるはず。
 フレームをかき分け鏡に映る彼女を探したが、彼女が鏡に映るフレームは一枚もなかった。
 どういうこと……?

 

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