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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

I/eye/愛

   

 祖母はヘーゼルと呼ばれる色素の薄い目を見ては怒鳴った。
「異人の娘!」
 嫌われていると思い込んでいた祖母の言動に陰には、かつて祖母が国外で犯した罪が隠れていた……目にまつわるサスペンス『I/eye/愛』

 

 
「お前はうちの子じゃない」
「……わたしは、パパとママの子だもん」
 しゃわしゃわとセミが鳴いている。磨きこまれた床に、幼い私と祖母の姿が映る。私はこの祖母が怖かった。髪は真っ白で、顔はしわに埋もれている。背は小さいくせに、強烈な威圧感がある。そう、目。祖母の目が、私は怖かった。祖母の瞳は、小さく半ばしわに埋もれるようにあった。けれど、
「ああ、憎たらしい。お前の、その目ッ。異人のようなその目が儂は嫌いだ」
 強烈に私を睨むのだ。その黒く炯々とした目で。
 私の瞳は、光の加減で色が変わる。緑に見えたり、青に見えたりするのだ。今では、それがへーゼルと呼ばれており、私が住む土地では珍しくないということを知っている。けれど、当時そんな知識はない。ただひたすら、祖母が不快だと言う目を逸らし、床を通して彼女を睨みつけていた。夏の時期だけ訪れるこの地では、私の瞳は異人の証だった。
「異人の娘」
 そう吐き捨てると、いつも祖母は去って行った。
 毎年夏が来るのが憂鬱で、中学に上がった頃には思春期という免罪符片手に、祖母の家には寄り付かなくなっていた。それが高校一年のある夏の日のこと。部屋で書き物をしていると、階下の父が電話口で、なにやら話し込んでる。途切れ途切れに耳に這入る言葉から、祖母が倒れたことがわかった。電話口の父は切迫してるわけでも、悲しんでいるわけでもない。ただ、遂にその時がやってきたという覚悟と諦めを持って話をしていた。淡々と。前々から具合が悪いと言う話は聴いていた。しかし、百を超える年齢を考えればよくここまで持ったと言える。
 祖母は、父方の親戚の中でも長老格で本家・分家に多大なる影響力を持っている。だいたい本家・分家という考え方なんて、今では時代遅れだ。核家族化が進んで、人のつながりも薄くなった。それなのに、まだ祖母はそれに縛られている。父も、伯父も伯母たちも。親類縁者がいない母とは随分違う。
 けれど父は四男ということもあり、父よりも高齢の長男長女の背負う重責からは免れていた。時折遠方に住む祖母に会いに行って、ご機嫌伺いをすればいい立場だった。
「――――」
 しかし随分と話が長い。さては、遺産分与とかそういう小難しい問題なのだろうか。中学の公民で習ったが、伴侶には半分の遺産を与えるらしい。そして子どもにはその半分が等しく分配される。……伴侶はとうの昔に亡くなっているから、全額を分配するのだろうか。
 けれど、私に関わりない問題だった。それよりも、筆を走らせることが忙しい。夏の間にひとつ作品を書かなければならないのだ。文芸部に寄稿する中編を書きあげなくては、部長の都に大目玉をくらってしまう。ぽつりぽつりと流れ込む言葉を遮断して、原稿用紙に向き合う。シーンは山場。ここは気持ちが乗っているうちに書きあげたかった。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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