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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season12-5

   

 御影と小柴がふたりきりでの行動ははじめてのことだ。終始無言。電車の中で、御影は気持ちが落ち着かない。

 ミラーズプロダクション芸能事務所のある外苑前駅で下車した。

 三階で構えているが通路からただよってくるにおいが焦げ臭い。爆発の名残だとあとで御影は察した。

 真野が出てきた。応接室に通された。御茶ノ水での爆発事件に関連があるのか、真野は不安がっていた。

 御影もまだわからないが、爆弾は単純な時限式。ミラーズプロダクションで起きた爆弾はトラップ式。誰でも思いつくしネットでも作り方を掲載している軽薄な者もいる。あえてつながりを連想させないためにか、特徴を変えているのかもしれない。

 女優のキサラが現れた。見るからに新人だが芸能界で君臨しているオーラが放っていた。

 改めて依頼内容をきく。そして御影はある疑念を抱き、キサラにたずねた。

 キサラが交際していた紙永 颯の名を口にした御影。過去をほじくり返し、彼女を罵るような詰問をする。あえてそうしたのには、紙永が解雇された会社にある。

 御影にはすぐに見えた。彼が勤めていた会社。それが事件の起因であることに、キサラ、小柴、真野ははっとする。

 

 終始無言のふたりだった。東京メトロ千代田線の新御茶ノ水駅から表参道まで来て、銀座線に乗り換え外苑前駅まで到着した。23分の時間だったが、これが30分ふたりっきりだったら御影はおそらく窒息死するところだったろう。

「息詰まるひとだ。こうも頑固な性格だとこっちがあぶない」御影はぼそぼそと地下鉄構内の騒音にまぎれて文句を垂れた。

「急ぎますよ、御影くん」小柴は聞こえていても不動明王な女である。

「そういうところはカッコいいけどな」御影は頭をかきながらついていった。

 ミラーズプロダクション芸能事務所の看板が見えた。外苑前駅から徒歩で5分の好立地な場所だと御影は個人的に思った。

 10建ての3階に構えている。

「芸能事務所か、なんか緊張するな。小柴さん、有名人とかサインもらってもいいっすか?」

「職務をまっとうすべきです。終わってからにしてください」小柴のルールはそれなりに的を得ている。社会人なら誰でもやるが、警察や政治家ならアイドルがきても職務を優先する。業務時間外にそういう人間らしいミーハーな部分をみせていいのだろう。

「わかりましたよ」御影はそっぽを向いた。三階の通路の奥側から漂う焦げ臭いにおいに鼻が気づいた。「煮物でも焦がしたか」

 受付の電話から小柴が名乗り、真野と対面したいことをつたえた。
 出たのは、そのマネージャーの真野だった。

「すぐにくるって。ここで待ちます」小柴はそういって御影に起立させていた。

「休んじゃだめっすか?」

「だめね」小柴は妥協しないほど筋金入りの生真面目だと改めて察した。

 扉が開いた。「真野です。こんにちは。よくいらしてくれました。ありがとうございます」

「はい、こんかいはこの御影がガードをします。まだ未熟ですが、私もサポートすることになりました。よろしくお願いいたします」小柴は深々と頭をさげた。

 御影は慌てて習って頭をさげた。

「どうぞ。中へ、ちょっといやなニュースが世間を騒然とさせてますけど…」真野が言った。

「それって、御茶ノ水で起きた爆発事件でしょ?」御影はぶしつけにも言った。

「ええ、そうですね。私どももちょっとそれでなにか関連があるんじゃないかって脅えてます」真野は正直に言った。

「おれたちもさっき現場をみてきたんですよ。犯人とも話しましたよ」御影はいつになく饒舌に話をリードする。

 小柴がいるせいか、主導権は御影にある。探偵だからだ。とアピールしているようだ。

 応接室に通されたふたりはソファでくつろいでいた。小柴は意気揚々と話を進める御影をよそに茶をすすっていた。まるで狐が池の水を飲んでいるように見える。

「そうですか。犯人と電話をしたのですか?」真野は目を丸くさせていた。

「でも氷室名探偵もいて、我々はこちらの依頼があると事務員の小柴さんに説明してもらい、おれだけでもこちらの依頼を受けるべきだとうかがったしだいです」

 御影は丁寧に言った。そして犯人と電話で話はしていない。通話内容はその耳で聴いただけだ。

「私たちの事件も同じだと思いますか?」真野は不安そうに御影にたずねた。まだ未熟そうで頼りなさそうだが、思っていた以上に探偵としてのスキルはあるように見えた、いや御影がみせた。

「いえ、まだそこまでは…、なにかしろのつながりがあればその可能性はぬぐえない。それに御茶ノ水での爆発事件は単独犯と決めてかかっていません。集団テロリストとしても警察は捜査しているでしょう」

 真野は手をふさいだ。恐怖のあまりにだ。

「御影くん、それ以上ほかの事件の内容を話すのはどうかと思いますよ。関連があるとは言い切れないので」小柴が言った。

 このときどんな立場で話しているのか、敬語で制したところをみると、御影を探偵として扱って口をはさんだように思う。

「そうだね、小柴くん」御影は膝と肘をつけて、頬杖をつくように手をのせて事務員兼助手をニヤニヤと見据えていた。

「どういうつもりで“くん”とつけたのでしょうか。未熟なあなたを育て、おだててあげようとしているの。恥をかかせないで。氷室探偵事務所の看板に泥をぬる気ですか?」

 確実に小柴の内面から鬼が顔を出そうとしている。

 御影はただただ押し黙るだけだった。

 ふたりの関係性が読み取れない真野は、交互にふたりを見つめていた。

「ところで女優さんはいらしているのかしら?」小柴は真野にたずねた。

「ええ、来てます。それで直接お話しをしてもらおうと思って。それときょうこれから情報番組の生放送もありますので、ガードをお願いします」

「わかりました。ご同行いたします」小柴は言った。

 御影は言葉を失い硬直が解けずにいた。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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