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ウパーディセーサ〈四十四〉

   2016年6月22日  

敦さん。これ、今日出そうと思っていた手紙です。返事、楽しみにしてますね!

 

 
 そんなこんなで、俺と彼女との文通が始まった。狭山一等陸佐はすぐに会いに行けと助言してくれたが、俺にはできなかった。何度か郵便局へ足を伸ばしたのだが、どうしても扉を開けることができずにいた。
 三日に一回のペースでの文通だったが、それはそれで楽しかった。先輩たちには「そこまでいったんなら早くメアドを聞けよ」と言われるが、俺はこの〝文通〟という古風さが気に入っていた。今日書いて、明日相手に届き、その翌日に返事が読める。普通ならもどかしくなるようなやり取りだが、俺にはその方が合っているような気がしていた。
 給料日になり、俺は母親への仕送りをする為、仕方なく郵便局へと赴いた。扉の前で何度も深呼吸をしていると、通りがかりのおばさんに変な目で見られたが、そんなことは関係ない。彼女にどんな顔して会えばいいのか? 不安に耐え切れずにいた俺は、立ち飲み屋で一杯ひっかけてくるか? なんて考えたが、それではなんだか負けてしまうような気がしてやめた。
 意を決して扉を開け中へ入ると、丁度お昼時だからか、局員の数が明らかに少ない。利用者も俺以外はおらず、心の中で「失敗した」と叫んだ。そんな時だった。
「宮守さーん。こちらの窓口へどうぞー」
 利用者のいない郵便局で名指しで呼ばれた。なぜか俺はキョロキョロと辺りを見回してしまったが、そんな俺を見て彼女がクスリと笑った。その笑顔がとても可愛らしくて、魅力的で、いじらしくて、脳にピンクの靄がかかった。
「お母様への仕送りですか?」
 彼女は優しい口調で言った。
「は、はい。そう……なんです」
「やっぱり優しいんですね。ふふっ、これはお預かりしますね。責任を持ってお届けします」
「よ、宜しくお願いします」
「宮守さん、よければ少しお話ししませんか? 今、みんなお昼に行っちゃって、私と古株の竹下さんしかいないから、少しくらいおしゃべりしても大丈夫なんです」
 まさかの展開だ。話す話題を用意してくるべきだった。俺に面白い会話ができるのか? それも好きな人の前で。ヘリからの降下訓練の方が俺にとって容易い。こんな高難度の任務を遂行できるのか……
「私、宮守さんとの文通、とても楽しみにしているんです。文通を始めてから、毎日が楽しくって、この仕事にも誇りを持てたんです。始めは郵便物をただ届ける仕事だと思っていたんですけど、そうじゃなかったんですね。人の気持ちを、思いやりや優しさを届ける仕事だって気づいたんです。人を笑顔にする大切な仕事だって。宮守さんと同じですね」
「い、いやぁ……俺なんて、まだ誰の役にも立ってないですよ。俺ができることは限られている。その限られた中から自分に何ができるのか考えなきゃいけない。地味な仕事なんですよ」
「宮守さんって、もっと照れ屋さんなのかと思ってました。文章では凄く物事を面白く伝えてくれるけど、会話になるとできないのかなぁって。ゴメンなさい! 勝手に想像してました!」
 そう言われてハッとした。思ったよりも話せているではないか。さっきまでの緊張感は切手の糊のように乾いてしまったようで、今は彼女との会話が楽しくて仕方ない。

 

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