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二人の恋の話

   2016年6月22日  

 それぞれの恋の形。速斗も心治も怖がり。

 

 
 日曜日、終日練習して大人たちは十八時に帰宅した。
 先輩たちを玄関先まで見送って、二階の自室に向かいつつポケットに入れっぱなしになっていた携帯を取り出す。
 濃密な練習内容とトークだったから、携帯なんて触るスキがなかった。
 もうじき夕食の時間になる。
 それまでにメールのチェックだけでも済ませてしまおうと思ったのだ。
 廊下を歩きながら携帯を開くと、液晶画面に映った『18:12』という数字がなんとなく信じられなく感じる。
 今日一日、とても早く過ぎていった気がする。
 外の明るさが、なんとなく違和感に思えてならない。
 今日の時間の速さに、速斗は取り残されていた。

 二階の自室のドアに手をかけながら、携帯のメールフォルダを開く。
 不在着信はきっと友達だろうから最後に見ても問題はない。
 それよりも気になるのが、メールの件数だ。

 ──メール四件…?

 速斗の携帯には毎日三件、ゲームのメールマガジンが入る。
 だから三件ならばいつも通りなわけだが、今日はプラス一件メールが余分に入っている。
 フォルダ内のゲームのボックスにはいつも通り三件メールが入っていて、残りの一件は友達ボックスに入っていた。

 ──誰だろ。珍しいな。

 速斗の友人は、大体メールより電話派である。
 いつも用件だけスパッと伝えて通話終了のため、ものの数分で会話は終了する。
 男同士なんて、それくらい淡白なくらいがちょうどいい。
 だからこのメールが不思議でならないのだ。
 とにかく開かない事には話が前に進まない。
 何の気なしに友達ボックスを開いた瞬間、速斗の心臓が痛いくらいに跳ね上がった。
「…うそ、…え?」
 メールの送り主は、連絡先を交換して以来今まで一度も自ら速斗にメールを送ってこなかった相手なのだ。
 メールもさることながら、話しかけるのも何か誘うのも全部速斗からである。
 メールの内容は、たった一文だった。
『何時に暇になる?』
 初めてのメールにしては、悲しくなるくらい味気ない。
 しかしそれでも速斗の疲れは吹っ飛んでいった。
『メールありがとう。八時過ぎると時間ができるよ!』
 相手からのメールが、とにかく嬉しくてたまらない。
 その相手に、速斗は子どものころからずっと一途に片思いをしているのだ。
 メールの返信をした後に不在着信の確認をすると、片思いをしている彼女からだった。
 電話に出られなかったのは悔しいが、練習中だったし携帯もサイレントマナーにしていたから仕方がない。
 とにかくメールに着信と、速斗が舞い上がってしまう事が一気に起こっているのは確かである。

 メールを返信して数分後、またメールがきた。
 ドキドキしながら彼女からの返信メールを開くと
『お風呂に入るから、九時以降に電話して。』
 と、とても女の子とは思えない飾り気のないものが帰ってきた。
 絵文字も顔文字もないし、デコメなんて言葉を彼女は知っているのだろうか。
 彼女とはかなり長い付き合いだが、子どものころからのきつめの性格は今でも変わらない。
 しっかりしていると言えばそうなのだが、その分全く隙がない。
 彼女との関係は一応親戚関係に当たるが、速斗に関しては血の繋がりが全くない。
 彼女は今の母親の弟の娘に当たる。
 自分に全く靡かないのに、それでも速斗はずっと彼女が好きなのである。
 恋なんて、片思いなんてそんなものなのかもしれない。

 二十一時を回るまでに早々に食事と入浴を済ませて部屋の戻った。
 身体から心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしているから、心臓が飛び出さないように抑えながら彼女に電話を掛ける。
 二回コールが鳴って、電話がつながった。
「ごめーん俺で!舞、風呂からまだ出てきてないんだよーん!」
 お調子者の彼女の兄が電話に出た。
「やす君全然ごめんって思ってないでしょ。」
 肩に入っていた力が一気にぬけて、どっと疲れてしまってベッドに座り込んだ。
「舞じゃなくてがっかりしたろ?」
「そりゃそうだ。」
「あーっ!青春っ!」
「うっさい!」
 舞の兄である安典とも長い付き合いである。
 年齢の面でいえば安典が速斗よりかなり上になるが、安典のキャラクターがそれを全く感じさせない。
「兄貴うるさい。妹の電話勝手に出るとか、とんだセクハラ。やめて。」
 相変わらずの舞の毒舌が電話の向こうからしてきて、電話のしゃべり手が交替した。
「出られなくてごめん。」
 心治や和彩と同じようなタイプの舞は、声に感情を乗せるのがとにかく下手である。
「いいよ、気にしてないから。」
 速斗の顔が、自然と綻ぶ。
「ニヤニヤしないで。気持ち悪い。」
「ゴメンナサイ。」
 長い間の片思い期間、速斗はこうして舞の尻にきれいに敷かれている。
 これもひとつの恋の形なのかもしれない。

 

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