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ハートフル

モモヨ文具店 開店中<22> 〜のりフェス。それから十年後のあなたへ〜

   2016年6月24日  

のりとはさみとはがきがあれば最強だって知ってた?
でも、今回はのりとはがきのフェスの話。
郵便局とモモヨ文具店がコラボした【のりフェス】には今年も大勢お客さんが来るわよ!十年後の誰かへ綴る手紙にあなたはなにを書くかしら?

『のりフェス。それから十年後のあなたへ』へどうぞいらっしゃい。

 

 
「こんにちは、ちょっといい?」
 梅雨明けが発表されて間もなくの昼過ぎのこと。
 郵便局員の木佐木 夏子が制服のまま手に筒とずしりと重そうな紙袋を抱えてやってきた。
「モモヨさんなら母屋ですよ。なんでも段取りがどうのって」
 応対した直くんは今日は男の子の格好で、引き戸を開け放して蚊取り線香に火を付けていた。マッチを消して、空き缶に放り込む。
 母屋の方を爪先だって覗き込む夏子さんは、あんたでいいわと直くんに筒と紙袋を手渡した。
「うちの局で毎年やってるモモヨ文具店協賛イベントのポスター出来たから貼っておいて。あとこれ、暑中見舞いと残暑見舞いのはがきね。各三百枚」
「分かりました。モモヨさんにも伝えておきます」
 受け取った直くんが頷くと、夏子さんはなぜか神妙な面持ちになった。
「……あんたさ、この店、辞めた方がいいと思うよ」
 びっくりして夏子さんの弓なりに尖った眉に目をやると、彼女はごめん、悪い意味じゃないのよと言った。
「モモヨ、結婚するじゃない。それに店移るし」
 言ってはいるが、どうも本質を得ない。直くんは切り出した。
「お相手が幼馴染みだっていうことは知ってますが……僕がいるとなにか不都合がでる、とか?」
 不都合がでるどころではない不都合をこのあいだ起こしたばかりの直くんはおそるおそる聞き返した。
「そうじゃないの。うーん、そうねえ……あいつ人たらしだからさぁ、あいつの周りにいると引力に巻き込まれて引っ張られちゃうよってことなのよ。それがいいこともあるけど、悪いこともまたあるしね。だから、早々にここを出るなり、自分で店持つなりした方がいいよ」
「……はぁ」
 直くんはなにがなんだかよく分からない。だけれど、直感的にそうだということが分かった。
 モモヨさんの力は強いし、大きい。多くの人が互いに関係し合って生きているなかで、ここ一カ所にとどまっているとモモヨさんの腕のなかでなんとなく終わってしまうよという意味だろう。
 神妙な顔をした直くんの肩を夏子さんは、ぽんっと軽く叩いた。
「まあ、話半分にでも聞いておいて」
 夏子さんは苦い笑みを浮かべると、モモヨ、ほんと人たらしなの、あたしも巻き込まれたくちとふざけたように付け加えた。
 母屋の方からがなり声が聞こえ、ばたばたと歩き回っている。どうやら電話相手のタカアキさんと揉めているらしかった。
「ほぅら、絡め取られたやつが一人、よ。ま、ともかくそれ、よろしくね。今年もうちの局は張り切ってるから」
 じゃあね、とひらひらっと手を振って出て行く。ベージュ色のネイルがきつい陽射しを反射して光った。店も暑くなってきたが、外はもっと暑い。道路から湯気が立っていた。涼しいと言われる月世野で三十五度を超える日が連日続いているのは観測史上二度目だという。
「モモヨさんに伝えておきます」
 頭を下げると、赤く輝く蚊取り線香からふんわりと煙が漂った。

 

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