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SF・ファンタジー・ホラー

ウパーディセーサ〈四十六〉

   2016年7月4日  

その前にいいか? この秘密結社の名前を考えたんだ。ウパーディセーサ。存在として寄りかかるべきものという意味なんだが、俺たちにぴったりじゃないか? 守る決意がある俺たちは寄りかかるべき存在にならねばならない。その言葉を背負うことによって俺たちは一つになれる。どうだろう

 

 
「そうか。やっぱりお前は被害者だったんだな。思い出して直ぐにこんなことを聞くのもなんだが、どうだ? その、思い出してよかったか? それとも……」
 平山はゆっくりとメガネを外し、腕を組んだ。
「よかった……思い出してよかった。俺の一番大切な人を忘れていたこの三年間が恥ずかしい。かおりはいつも俺に元気と幸せを与えてくれた。そんなかけがえのない存在を奪い去った奴が憎い。憎くて仕方がない。この怒り、どこへ向ければいいんだ!」
「マハーパリニルヴァーナ財閥。俺が調べたところ、あそこが一番怪しい。師匠の平山大黒《ひろずみ》は〝先方〟としか言っていなかったが、師匠が消えてから研究所をここに移したときに、発注書みてぇなもんが出てきたんだ。あの殺戮兵器の発注書だ。記載されている住所と財閥の所在地が一致する。って、おい! どこへ行く?」
「決まってるじゃないか! そのマハーパリニルヴァーナ財閥へ行って、中の奴ら全員ぶち殺してくる!」
 俺は立ち上がると、出口を探した。
 白衣を着た何人かが、目を点にして俺を見つめている。
 怒りで目の前が真っ暗になりそうだ。視界が妙に狭い。両目の左右に黒い影みたいなものが見える。次の一歩を踏み出そうとしたとき、目の前が真っ暗になって俺は倒れこんでしまった。
「お、おい! 宮守!」
 平山が急いで駆け寄ってきたようだ。
 何も見えない。どうしてしまったんだ。
「おい! 松原! 診てやってくれ」
 松原と呼ばれた男が俺の顔をネトネトした手で触れる。妙な感じだ。やたらと鼻息が荒い。しっとりとした柔らかい何かが俺の唇に触れる。そして俺の唇の隙間に生温かいクネクネしたものが侵入してきた。その瞬間、視力が戻った。目の前に、うっとりとした表情の男が瞳を閉じている。俺は全てを理解した。
「うわぁ! な、な、なにしやがんだ! 気持ち悪い!」
 後ずさりした俺は目の前にいる男を再認識した。中年の背の低い男。襟足だけ伸ばした金髪の男が頬に手を当て、顔を赤らめている。
「なにって、治療よっ。現に治ったでしょ? うふっ、久しぶりにいいものを頂いたわ。ご・ち・そ・う・さ・まっ」
 背中に冷たい何かが這うような、鳥肌が全身を覆い尽くし、吐き気を催した。袖で何度も口を拭い、半笑いで研究員が持ってきてくれた水を一気飲みした。
「アタシ、思うんだけどっ。きっとかおりさんが貴方をとめたのよ。復讐なんて誰も喜ばない。むしろ、かおりさんは悲しむわよ。分かるの、同じ女として」
「…………」
「まぁ、なんだ。こいつの性別はおいといて、お前が一人で乗り込んだところでなんの解決にもならねーんだ。死んでいった奴を偲ぶことは大切だ。しかしそればっかりだと前に進むことができなくなる。だから俺たちは何としても被害者を減らそうと、ここでひっそりと活動しているんだ。それが唯一俺たちにできることだからだ」
 既に一億もの人が被害に遭っていると平山は言った。その何倍もの人が俺と同じく悲しみを忘れている。その人たち全員にその記憶を取り戻させることが、果たして正解なのだろうか? それは一種の押し付けになるのかもしれない。なら今俺にできる事は何なのだろう。
 俺は知ってしまった。この凶悪な陰謀を。
 俺は知ってしまった。この底知れぬ悲哀を。
 ならば、俺と同じく悲しみを知ってしまった人たちを守ろうではないか。一人でも多くの人を救えるように尽力しようではないか。

『日本を平和に保つ為の他にない立派なお仕事だと思います。これからも日本の平和を宜しくお願いします』
 

 

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