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鳥の知らせ 前編

   

今から遡ること、20年ほど前。
たくさんの鳥たちと暮らす、平凡な家庭の、ある夜の不思議なお話。

 

もう、20年ほど前の、ある夜のおはなしです。

ゆり子と、ゆり子の母はつ子と、妹の美佐は、晩ごはんのあと、3人でテレビを見ていました。
ゆり子の家の茶の間は、20畳ほどの和室で、その真ん中には、切り倒したケヤキの木目をそのまま使った大きな座卓型のコタツが置かれ、隅には民芸調の大きな茶箪笥があって、その上には立派な神棚が祀ってありました。
そして、その部屋で、その立派な神棚よりもさらに大きな顔をしているのは、父の趣味で買った37型の大きなテレビで、今のものと違い、後ろも前もとにかく大きく太く、それを父は家を造作してまで壁に組み込むように配置し、見栄え良く納めたのでした。
それは、家に来るお客さんたちにも、こんな大きなテレビは見たことがないと口々に言われるような代物でした。

田舎で建設会社を経営していたゆり子の父は、とにかく何でも新しい物が好きで、次々に値段の高い新発売の電化製品や家財道具を買ってきては、家族や親戚や友人達に、自慢をするのが好きだったのでした。

師走に入ると、窓の外はしんとした雪景色が広がっていました。
11月半ばから降り始める雪は、山間の静かな盆地を、ゆっくりと覆って行くのです。
ゆり子は、雪景色は嫌いではありませんでした。
雪が降ると、生活が不便になることはわかっているのですが、暖かな家をまるで守るように、外に降り積もる白い雪が、まだ子供だったゆり子には、なんだか安心感を与えてくれるものに感じられたのでした。

茶の間の、雪見障子がついた窓の下には、大きな石油ストーブが置かれ、その上では、いつもやかんがしゅんしゅんと音を立てていたり、お醤油の匂いのする煮物が、ゆっくりと時間をかけて煮込まれていたりするのでした。
そして、母はつ子が作るその煮物は、次の日の夜の献立であったり、一日中、気が向いたときに食べる煮豆であったりしました。

その晩、テレビでは、歌番組を放送していました。
ゆり子と母はつ子と妹の美佐は、みな歌番組が大好きでした。
テレビの画面で、歌手が力一杯歌ってくれさえすれば、ジャンルはほとんどなんでも良く、ちょっとした歌手の批評なんかを話し合いながら、楽しい時間を過ごすのでした。
女三人だけの晩御飯が済んだあと、みかんやりんごを食べながら、のんびりとテレビを見て過ごす、というのが、その頃のゆり子たちの毎晩のスケジュールのようなものでした。
父親は、仕事や付き合いで毎晩帰りが遅く、家で晩ごはんを食べることなど一年に何度もないような状態でしたから、夜の茶の間は、ほとんどいつも女だけの幸せな空間になっていたのでした。
そこへ、何の手違いか、たまたま父親が早く帰宅などし、野球など見始めると、ゆり子たちは汐が引くようにその場から一人減り二人減り、誰もそこにはいなくなるのが常なのでした。
別に父親が嫌いというわけではないのですが、小学校5、6年から中学生くらいまでというのは、父親というのは、やたらとかさ高く感じられ、それにあまり接点もないのでした。

 

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