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ノンジャンル

最終的人道装置

   

世界中の企業や機関、とりわけ軍関連セクションが強烈なバッシングに晒されていた。本当は既に無人化された機体や車両を使っていたにも関わらず、パイロットたちがいるように偽装していたからである。安全面の懸念等々もあったが、何より人件費は税金によってまかなわれており、存在しない人間に巨額の出費をさせられていたと知った各国民の不満は激烈なものがあった。

一方、あらゆる車両および機体の無人化計画の最先端を独走する二人の天才、バニスター・ジョンとショウイチ・ナカザトは騒動にも関わらず気楽なものだった。

情報が漏れた原因は発注先の各組織にあるわけであり、また、無人であるという事実を隠しておく必要をまったく感じなかったからである。

敵対する両国が完全に軍事兵器の無人化を達成すれば、理論上は戦闘行為での死傷者は限りなくゼロに近付く。故に汎用性の高い無人化装置は「最終的人道装置」だと理解していたからである。

ところが、ジョンたちが作業を一旦止めようとしたその時、完全武装した民間兵たちが血相を変えて乗り込んできたのだった……

 

「ネットに流出した情報は、全て真実であります。本当に、申し訳ありませんでした」
 逞しい肉体といかめしい顔立ちを有した軍の上級将帥たちが、深々と頭を下げた。
 無数のシャッターの光が彼らを包み込む。
 しかし、詰めかけた取材陣は、真っ白な軍服の胸部を覆い尽くす勲章の数々や、飛び抜けた武勲を示す制帽の縦横線には焦点を合わせていない。
 カメラマンたちが狙っているのは、額に脂汗を滲ませ、虚ろな目をした士官たちの表情である。
「謝罪されるのは結構ですがね、元帥閣下」
 最前列に詰めかけた三十代半ばほどの記者が挙手もせずに声を上げた。
 まだ中堅と呼べる年齢にも達していないにも関わらずお世辞と世渡りがうまく、陰口の的でもあった昨日までの姿とはまるで別人である。
 記者の顔からは貼り付けたような作り笑いは完全に消え失せており、部下に対して常に毒のある皮肉を飛ばすという評判通りの意地悪さが前面に出てきていた。
「我々は真摯な言葉を聞きにきたわけではないんです。今後、どうするのかということです。私が言うまでもありませんが、これは深刻な汚職、裏金というやつですよ。我々の血税が、まったく無益なところに使われていたんです。三万人分の人件費ですよ。中小規模の国なら軍全てがまかなえる額です。それが全て、存在しない人間に支払われていたというのですからね」
「べ、弁解のしようもありません。ただ、今の私にできることは謝罪だけです。お金は当然、追ってしかるべく返還されるでしょうが……」
「でなければ困ります。もっとも、いくら金が返ってきたところで、あなた方への信頼は二度と戻りはしません。事実解明に全力をとおっしゃいますが、本当はどうでしょうね。我が国の件にしても、エースパイロットとして大佐の任にあったX氏が、実は五年も前に死んでいたことが分かったから公然化したわけでしょう。私も驚きました。X氏が軍のパイロットをする傍ら、危ない薬の密売にも手を出していて、しかもその分け前で仲間と揉めて山中で骨になっていたというのですから。『仕事』をしたマフィアが遺言状に書き残していなければ、彼はまだ記録上は大佐であったでしょう。……いずれにせよ、裏金は返還されるとして、不要だと証明された三万人分のポストは一切削減されるでしょう。三万人が六万人にならないように、せいぜい、納得のいく説明をされてはと思うのですが」
 記者がにやりと笑うと、再びシャッターから繰り出される威圧的な発光が将帥たちを包む。
 元帥たちは深々と下げた頭に隠れて歯を食いしばっているが、同情的な態度を取る報道陣は皆無である。
 今まで、軍関係者から従僕のような扱いを受けながら、どうにか断片をさらに細かく砕いたような記事にありついていたマスメディア側も、この状況に達すれば、もはや一切気後れすることはない。

 

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