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SF・ファンタジー・ホラー

ウパーディセーサ〈四十九〉

   2016年7月12日  

平山……でもこれってどう見てもただの七味唐辛子だよな?

 

 
 あっという間に一ヶ月が経ち、僕は自由に体を動かせるようになった。
 リハビリは思っていた以上に過酷なものだった。
 本来人間は歩くときに「右ひざを曲げ、体重移動をしながら左足を前に出す」なんて考えない。しかし僕の場合は一つ一つ論理的に命令を出さなければ歩くことができない。はじめのうちは頭が破裂するかと思ったくらいだ。命令の順番を一つでも間違えると転んでしまう。転ぶ瞬間に「両手を前に出す」と命令を出せるはずもない。だから僕の顔は傷だらけだ。
 それに担当医はもちろん松原だ。一つ失敗する度に口を尖らせて迫ってくる。普通の人なら反射的に行動をとることができるが、僕はそうはいかない。僕の唇はホモの中年に何度も吸われることとなった。
 そういえば、利き手という概念がなくなった。脳の命令によってコントロールするため、慣れていた右手ではなく左手も同じように使えるようになった。
 一ヶ月も経てば嫌でもこの体にも慣れてきて、入念に指示を考えることもなくなり、会話をしながら食事もできるようになった。
 客間で昼食を摂っていたとき、平山がシステムルームから出てきて僕に声をかけた。
「おい眇寨、食い終わったらでいいから俺のデスクに来てくれ」
 妙に神妙な面持ちであった。もしかしたら今度こそ本当にアンチリードセルプログラムがバクを起こしたのかもしれない。急いで残ったうどんを啜ると、僕は鏡に食器の片付けを頼んで平山のデスクへと急いだ。
「おぉ、来たか。やっと完成したんだよ!」
「完成したって、もしかしてタイムマシン?」
 デスクの前には平山と松原、そして宮守が立っている。先に宮守が説明を受けていたようだが、案の定、宮守は何も理解できていないようだ。
「あぁ、そうだ。松原の協力もあってな。計画より早く完成させることができたんだ。それがこれだ」
 平山は机の上に乗っている七味の瓶を指差した。
 僕が想像していたのはタイムマシンという乗り物だった。
 本当にこんな小さな機械で過去に戻ることができるのだろうか? しかし平山がこんな冗談を言うわけがない。でも、これは〝七味の瓶みたいな物〟ではなく、でかでかと〝七味〟と書かれた正真正銘の七味の瓶であった。
「平山……でもこれってどう見てもただの七味唐辛子だよな?」
 そこで平山が少し恥ずかしそうに顔をそらして言った。
「これは……松原のお遊びだ」
「えぇ~、お遊びだなんて。ひどいわっ。アタシは本気で造ったのよ。何かあったときのカモフラージュになるかもってね。それに素敵じゃない? 七味って。一振りで七色もの味を楽しめるのよ! はっきり言って、世紀の大発明だと思うわっ」
 分からなくもないが、この人はもっとすごい世紀の発明を作っていると思うのだが……
「この赤いキャップがダイヤルになってんだ。いつの何時何分って設定できる。そんでキャップを押し込むとその指定した時間へ戻ることができる。でもな、過去に留まっていられるのは十分間だけだ。十分を過ぎると自動的に現代へと戻ってきてしまう」
「それと、一度行った時間へは二度行くことができないの。空間に歪みを作ってしまうからよ。その歪みが大きくなると、その時間が消滅してしまう可能性がある。つまりアタシたちの〝今〟がなくなってしまうの。これは大変なことでしょう?」

 

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