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ハートフル

傷が癒えてしまう前に

   2016年7月14日  

支配する者とは、
即ち、支配される者なのかもしれない。

でも、それは当人たちにとっては、すごくどうでも良い事なのだ。

 

分かる。
知っている感覚だ。
どうしようもないくらいに、どうしようもない感覚。
理解しているのに、放っておくしかない。
もう、この先には何にも残っていないと分かっている。
でも、仕方がないの。

「聞いているの、進路のこともあるでしょ。」
頭の上に厳しい言葉が下りてくる。
クラス中の視線が、自身に集まっていることが少年には分かった。
「晒し上げかよ。」
聞こえないように、ボソリと呟く。
頭上を盗み見ると、三白眼の女が少年を見下ろしている。
視線を合わせただけで、喰い付かれそうだ。
「なに。」
彼女の着用する長細い銀縁の眼鏡では、その鋭利な目線を濾しきれていない。
着こなす黒いタートルネックと合わさって余計に高圧的だ。
「ベタだよなあ。」
思わず少年は口にする。
その言葉が「ベタ」な人に聞こえたらしく、
「何が。」
頬が斬れたのではないかと錯覚する程の視線を貰った。
「なんでもないです。」
周りからクスクスと笑い声が漏れて聞こえてきた。

「何なの、昼間の。みっともない。」
放課後からも随分経って、
ようやく少年が忘れかけた頃に、蒸し返すように少女は呟いた。
「僕に厳しいよね、あの先生。」
少年は少し面白く無かったが、いちいち尖っても仕方ないという体で言葉を返す。
少女は、少年の投げ出された腕の中、
「ふうん。」
と、鼻で返事をして、
「いじめられて嬉しかったりする訳?」
くるりと寝返りをうち、少年の華奢な胸板の上に頭を置いた。
彼女の長い黒髪が、ささらと揺れる。
少年は、天井を見ていた視線を胸の中に居る彼女に戻し、

「これもまたベタな。」

と、思いながらも口にする事は無く、
「いまどき、あんなテンプレートな鉄仮面ないよね。」
上目を送る少女に目線を合わせて答えた。
彼女は少年の胸板の上をにじり寄って、鼻先まで顔を近づける。
彼女の顎が痛いので、少年は彼女と寝るときはいつもこの体制を避けようとするのだが、毎回、なんだかんだで敵わない。
鼻先まで近づけた顔を少年の頬を経由し耳元まで持っていくと彼女は、
「どーかな、先生、美人だし。」
短く言った。
この黒髪が何を言って欲しいのか、少年には分かっていた。
腕を広げ、覆いかぶさる彼女を迎え入れながら少年は言う。
「君の方が」
黒髪は満足そうに少年に身体を預けた。
少年は、彼女が重いけど重くない。

 

-ハートフル


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