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更年期パラダイス【1】

   

父から受け継いだ小さな弁当屋を、全国チェーンに育て上げたコユリ。
結婚、子育て、仕事、そして離婚。
恋愛には目もくれず、ひたすらに駆け抜けた女性実業家の心と体を描く、大人の物語。

 

 コユリは、父親が経営していた小さな弁当屋を継ぎ、それを拡張し、全国に名だたる弁当チェーン店『パラダイス弁当』を作り上げた女だった。
 店内の弁当はすべて二百五十円均一という方針で、業界内ではコユリは「二百五十円弁当の鬼」と呼ばれ、その豊富なメニューと内容の濃さ、そして驚異的な安さで、他の弁当チェーンを駆逐し業界一位となったのだった。
 中でも有名なのは「カニクリームコロッケ弁当」で、コユリは「カニクリームコロッケの魔女」の異名をも持っていた。
 電子レンジで弁当を温めても、コユリの研究開発したカニクリームコロッケの皮はかりっと、中はトローリ、まるで高級レストランのような味わいを損なわないのだった。コユリはカニクリームコロッケ弁当で、この業界内に名を売った。レシピは当然、トップシークレットで、一時は産業スパイまで出る有様であった。

 そんなコユリも、もう五十歳を過ぎた。
 コユリは、美人では無いにしろ、顔はまぁ普通だった。色の白いのだけが取り得で、背は低く、中肉中背の特徴の無い体つきで、あえて言うなら敏捷な感じを周囲に与えた。
 若い頃に一度結婚し、子供も産んだが、結婚生活は長続きしなかった。
 お見合いで結婚し、一人娘だったコユリの家に養子に来た夫は、わりと良い家の次男坊で、怠け者のくせにエリート意識だけは強いという、鼻持ちならない男だった。
 その上、夫は都合の良いときだけ商売に首を突っ込みたがり、正直言って邪魔だった。
 コユリはしみじみ思う。どうして男というのは、なぜああも邪魔なのだろうか。
 最初、弁当屋はまだ規模としては小さかったので、夫は何も知らずバカにして、コユリの努力など見てもいなかった。
 しかし、実はその頃、会社は一番大変な、そして上手く上昇気流に乗ればぐんと伸びそうな、そんな時期だった。コユリは、体がいくつあっても足りないほど忙しかったのだった。
 コユリの母は、コユリがまだ小学生の時に病気で亡くなったのだった。なので、子供が生まれても頼れる存在はいなかった。その上、父が脳梗塞で倒れ、意識は取り戻したものの、寝たきりになってしまった。
 さすがにとても家のことに手が回らなくなったコユリは、常勤の家政婦サービスを頼むようになったが、そうすると、夫は家政婦さんを顎で使うことばかり覚え、そうして、もちろん当然のように、寝付いているコユリの父の世話など、一度もしたことが無かった。

 結婚してからというもの、コユリは男と暮らす面倒さだけが身に沁みた。

 

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