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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season13-3

   2016年7月15日  

黙秘し続ける薪こと杉山と名乗る男。政木警部はスパイ屋ジンの間抜けな泥酔によって大物を拘束できたことに喜ぶも、その真意はいまだ不明のままだった。

政木警部が氷室探偵社に依頼した本人。氷室に直接連絡を取るため探偵社に電話したが、小柴が電話口で冷たく言い放った。氷室は不在と。

政木警部は憤慨するも、氷室名探偵から直接着信がはいる。御影は見習いだが有能であると、それに森谷も信頼できる人物、任せてみてはと言った。

政木警部はもとよりそうなるだろうと察していた。氷室名探偵が不在とあらば、そうするしかなかった。

潜入捜査のさい、御影のサポートを十分なくらいに配慮すると約束した。

御影には特殊装備を施す。盗聴器、発信機、監視カメラ、通信機を装備させる。これで指示もできるし状況把握が速やかに対処できる。成りすましのサポートは万全だった。

探偵事務所内で御影の成りすまし修練が始まっていた。

黒川刑事が持ってきていた。薪の自宅からワンセット、身なりの物だ。スーツや小物類。すべて着替え直してみた。ぴったりだった。
有名ブランドばかりを身につけて完成された恰好に川上は大使館勤務は給与がいいのか、とうらやましそうに見つめていた。

だがここでひとつ問題が生じた。入館証の顔写真と御影を見比べてその相違点があることに気づいた。

早めにそれを対処しなければならない。

杉山 太郎は天然パーマだった。

 

警視庁では薪こと大使館では杉山と名乗る職員を逮捕した。酔っぱらって手痛い失敗をしたこの間抜けを出し抜いたところまではよかった。だが、その後は黙秘だ。

「くそ!」政木警部は事情聴取しても一向に口をわらない。「だんまりだ…、スパイはまちがいない」

「警部…」不安そうに見つめる伯田 春道(はくた はるみち 30歳)刑事から昇格し警部補になった。「黒川が氷室名探偵と話せましたかね?」

「だめよ。さっきね、連絡あった。氷室名探偵の助手でいやな女、小柴っていう事務員よ。彼女がいっていた。氷室探偵はいま別件でこちらには対応できないとね」

「じゃぁ、どうするんですか? 見習いですよね? 彼ひとりでは失敗する。作戦を変えたほうが…」伯田は警部に意見できる立場になった。

「却下」だがそのほとんどが警部補であるため、退かれる。

そこに政木警部の携帯電話に着信。

「あっ、噂をすれば、もしかしてあのお嬢ちゃんが連絡してくれたのかしら」政木警部はごきげんに着信を出る。「はいはい」

「ずいぶんと明るい声ですね。かなり問題ありの依頼をされてきたとうかがったのですが」

「これはこれは氷室名探偵、お久しぶりですこと…、そうなの大問題な案件なのよ。そちらの別件とやらは終わったのかしら、手伝ってくださらない?」

氷室は電話口で笑った。「それはむりです。こちらも問題ありでして、そちらに早急にうかがいたいのですが、わたしの探偵事務所には有能なメンバーがそろっております。どうか彼らに任せてみては?」

「わかってます。もとよりそうするよりしかたないと事務員のお嬢ちゃんがものすごーく冷たく言い放って電話を切られたわ」政木警部は憤慨している。

「それはしつれいな態度を…、どうにも政木警部からの電話だと取り次ぎがやや雑になる性質な受話器のようでして…」氷室はいった。

「受話器? それが雑になるの? はっ、まったくどういういいわけしているのかしら」政木は呆れかえっていた。
「もっともだからわたしの部下の黒川を向かわせたのよ。資料をたずさえてね。しっかりと依頼どおりにしてもらわないと…、こちらで逮捕した者はだんまりなんだから。口を割るくらいの証拠をみせつけないと固く閉ざされた扉は開かないようね」

「だいじょうぶです。御影は見習いですが優秀です。それに森谷探偵がいます。変装、成りすましのプロフェッショナルです。いい指導をしているでしょう」氷室はご満悦に微笑んだ。

「それが、あさってには来館してもらわないとならないのよ。まにあうわけ?」政木警部は事実を投げた。

「そうですか、それはそれは、んー、どうですかね。わかりません…」氷室でもわからないことはある。

「ちょっと、ほんとうにだいじょうぶ?」政木警部の眉間にしわが寄った。

「そんなことより、政木警部、誕生日おめでとうございます」氷室は話題を変えた。

「しらじらしく、いつの話よ。11月20日よ誕生日。もう12月16日よ」

「そうですね。また歳をひとつとった?」

「あなたね、どういう意味でいってるわけ?」政木の怒りは頂点に達していた。このままではもっている携帯電話を薪がいる事情聴取の扉に投げつけるかもしれない。

「いえ、ますます色っぽさが増したかなと思いまして」おだてるのがうまい氷室名探偵だった。

「あら、そう、いやだわー、ほほほほほほっ」政木警部もまんざらではない。しかも単純な女なのだ。

政木 藍子(まさき あいこ 36歳)。氷室がいったとおり色っぽさはあるが、今回はその色気など微塵も感じない捻くれ者を聴取しなければならなかった。

微塵も口を割らない。しかたなく潜入捜査を氷室探偵事務所に依頼した。薪と見習い探偵の御影の顔や背格好、声が似ているからだ。

「それじゃ、あなたのところの坊や、借りるわよ。責任はもてないけど」

「しかたあるまい。でもけして失うような結果にだけはならないよう警視庁も動いてくださいよ。さもなければわたしもどう対処したらいいか。だいじな駒ですからね」氷室はめずらしく政木でも、脅迫じみた声でおどした。

「わ、わかっているわよ。いつもお力添えいただいたおかげで解決している事件も無数にあるから、サポートはしっかりします。伯田警部補と黒川刑事を大使館近くで見張らせる。わたしも同行してね。そして、盗聴器と監視カメラ、発信機に通信機を御影くんの体にとりつける。それを伯田らとそちらのメンバーのだれかくるのかしら? 協力して潜入捜査を成功へと導くの!」政木警部は声を高らかにあげた。

「いいでしょう。わかりました、では…」氷室から電話を切った。

「素っ気ないわね。ほんとうにもう…」政木警部は事情聴取の扉をみつめていた。そのなかにいる化け物をどう退治するか、そもそも証拠がなければ打破することはできないし、つながりの相手も一網打尽にはならない。

政木警部は伯田警部補に言った。

「この顛末、どうなるか予測がつかないわね」

「はい、そうですね」伯田はなにも考えていない。

「頼んだわよ、御影くん」

 

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