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SF・ファンタジー・ホラー

ウパーディセーサ〈五十〉

   2016年7月15日  

俺は……俺は、とんでもないことをしてしまったんだ。ごめん。本当に……ごめんなさい

 

本気のディープキスに耐えたにもかかわらず、結局僕と宮守が行くことになった。
僕は今、十二年ぶりにここに立っている。
そう、三月を射殺してしまった現場にだ。
貸しガレージが五つ並んでいる、その四つ目の前だ。
僕の膝は少し震えている。
「お前の夢で見た場所だな。お前の夢の映像よりかなり廃れているなぁ」
「そりゃそうですよ。十七年前の記憶なんですから。小学校を卒業するまで毎日ここを通っていたんですけど、いつもこのガレージの前を見ないようにしてました」
「ま、見たくないだろうな」
「そうですね……」
「さて、とりあえず行ってみるか? 十七年前の五月二十六日へ」
僕と宮守は同時に七味の瓶の蓋をぐっと押し込んだ。
一瞬景色が黒く、赤く、黄色く、青く、グルリと回った。
曇っていた空が、一瞬で橙色に変わった。
僕の目の前には紅の海に哀れな少女が浮かんでいる。
僕は走ってその少女を抱きかかえた。
宮守はあらかじめ位置を調べてあった公衆電話へと駆けて行った。
「三月! もう大丈夫だからな。絶対に助けてやるからな」
「……眇寨くん、よかった。戻ってきてくれたんだね。眇寨くんの遠ざかる背中を見てとってもとっても不安になったの。でも信じてた。きっと戻ってきてくれるって」
「三月、俺が分かるのか? 俺が眇寨だって分かるのか?」
「だって、眇寨くん。ちっとも変わってないんだもん。私がいないと危なっかしいところがね……でも、どうしてかな? なんにも見えないの。もう夜なの?」
「そ、そうなんだ……今日は月も星もない、真っ暗な夜なんだ。だから……心配いらないよ。さぁ、ゆっくりでいい。ちゃんと息をするんだ」
三月の大きな瞳が涙でいっぱいになっている。
その涙が目尻のほくろをなぞって流れ出した。
それをみた瞬間、僕も涙をこらえることができなくなった。
重力が涙を欲している。
「眇寨くん、泣いてるの? どうして?」
「俺は……俺は、とんでもないことをしてしまったんだ。ごめん。本当に……ごめんなさい」
僕は三月を抱きしめながら必死に謝った。謝ることで、三月が助かるわけではないのに……
その謝罪は、むしろ自分のためだったのかもしれない。
謝ったという事実が、少しは心を軽くしてくれるかもしれない。
そんな謝罪だったのかもしれない。
なのに……
「眇寨くんは悪くないよ。誰も悪くない。悪いのは……悪いのは……あたしのパパなんだから……」
そう言って、三月は僕の頭を優しく撫でた。
「三月? どういうことだ? なぜ三月のお父さんが悪いんだ? なぁ?」
「眇寨くん……あたし、もう行かなくちゃ。あたし、眇寨くんのお嫁さんになるのが夢だったけど、叶わなかったね。でもね、あたしが眇寨くんを守るから。だから信じて。眇寨くん自身を信じて。何かあったら、あたしに言ってね。大切な眇寨くんのためなら、あたし……」
「三月? な、何言ってんだ? お、おい」
「あたし、いくね。優しくしてくれて、ありがとう」
そう言った瞬間、三月の体がフワッと浮き上がり、紅に染まった夕空へと登ってゆく。そして聞いたこともないような雑音が鼓膜を突き刺したかと思うと、空に大きな穴が開き、三月はその穴に吸い込まれ、その穴の消滅とともに姿を消した。
足元には大量の血糊だけが残されている。
遠くの方から救急車のサイレンが聞こえてくる。
僕も宮守も、一言も話さなかった。
そして気が付いたときには、もう現代に戻ってきていた。

 

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