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ウパーディセーサ〈五十二〉

   2016年7月21日  

みんな、おはようございます。昨日は楽しかったですね! 早速ですが重大なことを発表します。皆んなの記憶がいじられました。

 

「待ってくれ!」
そう言って僕は目を覚ました。
目の前にはいつもの光景が広がっていた。
三月はどこにもいない。
でも、三月はこうやっていつも僕を守ってくれていたんだ。
僕は早速着替えて客間に向かった。
皆、いつもと同じように各々朝食を摂っている。
三月が言っていた。誰かがアフターワーズを起動させ、職員の記憶を狂わせ、アンチリードセルプログラムを持ち去った、と。
となれば、誰か一人この基地からいなくなっているはず。そしてその人物のことを職員たちは「会ったこともない」と言うだろう。
僕は客間とシステムルームを観察し、姿の見えない者を探した。
しばらく行き来し、二人見当たらないことがわかった。
松原と沼堀だ。
両者とも科学者で技術者だ。しかしいくらなんでもあの二人がそんな真似をするはずがない。きっと松原は自室でお肌を整えているんだ。そう言い聞かせて平山に話しかけた。
「平山さん。沼堀さんはどこに行ったんですか?」
「あぁ、二日酔いだとさ。だらしねぇーぜ、まったく」
平山の言葉を聞いて、まさかと思った。
平山は沼堀のことを覚えている。沼堀という存在を認識している。
と、いうことは……
「あの、平山さん。松原さんって、どこ行ったんですか?」
「は? 松原? 誰だそいつ」
僕はこれ以上何を言っても無駄だと確信した。
ここで例えば平山に松原を思い出せと言い寄ったとしても、記憶から松原という存在が消去されているのだから、〝思い出す〟という観念がもはやないのだ。
念のため、宮守にも訊いてみた。結果は同じだった。
僕は皆んなをシステムルームに集めてもらうように宮守に頼んだ。
皆んなダラダラと集まってくる。
宮守が職員に僕から話がある旨を伝えた。

「みんな、おはようございます。昨日は楽しかったですね! 早速ですが重大なことを発表します。皆んなの記憶がいじられました」
宮守、平山を含め、職員たちがどよめいた。
「信じられないのも無理ないです。が、聞いてください。僕が焦響からナイフで刺された事件を覚えてますか? そう、僕は歩けなくなった。でも今、普通に歩いています。なぜでしょうか? 平山さん、わかりますか?」
「あれは、奇跡としか言いようがねぇーよな」
「そうですか。でも見てください。僕のすべての関節に縫い合わせた傷があります。平山さんはこれに見覚えありますか?」
「いや、ねぇーな。俺に外科手術はできねぇーし」
「そうなんです。僕はある日突然、体が燃えるような痛さで目を覚ましました。あまりの痛さに飛び起きました。起きあがれるはずのない僕の体が動いたんです。そして、節々に糸で縫い合わせた痕がありました。まだ少し血が出てました。前の日まではそんなものなかったんです。ということは誰かが僕に外科手術を施した。すべての関節にクイックシルバーという特殊な金属を入れたそうです。それによって僕は動けるようになった。そう考えれば合点がいきませんか?」
「そうだな。だが、誰がやったっていうんだ?」

 

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