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ハートフル

俺は友の背中を追いかけていく、全裸で。

   

良い奴の欠点は、総じて「良い奴である」ことだ。

良い奴は好きだけれども、良い奴にはなりたくないと思う。

そんな「良い奴」の話。

 

俺はお前の才能が嫌いだ。

「背番号1番、万江蜂郎、脱ぎまーーーす!!!」
沖縄県立うるま工業高等学校野球部室。
「やめろー!」
「いーぞ脱げ!脱げ!!」
「見苦しい!!」
「俺もー」
県大会が終わった事もあり、
ここでは、今年に卒業する三年生に向けて送別会が行われていた。
「帰れ!粗チン!!」
「いーぞ!」
「見納めだなあ」
いま、パンツに手をかけて脱ぎ去り宙に舞わせた坊主頭が似合う男。
万江も三年生なので、送られる側ではあるのだが、生来のおふざけ気質により後輩を差し置いて身体を張った笑いを提供し続けている。
「きったねえ、」
「流石ッス、先輩。」
「おっしゃあ、俺も脱ぐー」
そんな万江の横にすらりと立つ色白の長身の男。
「熊代ーー、モノの違いを見せてやれーー。」
熊代悟も三年生であるのだが、万江と同じく率先して笑いを取りにいくムードメーカーだった。
ノリの良さと、おっとりした人当たりの良い性格もあって、万江とは違う意味で人気者である。
「うわーーやっぱデケーーー!!!」
うるま工業高校野球部は、この二人のチームと言っても良かった。

日は陰り下校時間もとっくに過ぎて、
部活動の練習時間だから、という言い訳も使えないくらい日が傾いた頃。
校門をわらわらと野球部員たちが出てくる。
普段なら、駅なりバス停なり歩きなり、
各々、帰り道は異なるハズであるが、この日ばかりは皆、何故か一人として別れようとはせず、群がりを崩さぬままに帰路を辿り出した。
きっと、いつまでもこの「うるま工業高校野球部」のままにおりたいのだろう。
出来るだけ歩幅を狭めて、暗がりを坊主頭の群れは行く。
その群れの中、
万江と熊代は他の面々とは少しだけ離れてタラタラと歩いていた。
「すまん。決勝点だったのに。」
先に口を開いたのは万江の方だ。
「いいよぉ、ハチローのせいじゃないじゃん。」
熊代はいつものようにボーっとした口調で返す。
前を歩く一人の部員のこめかみが一瞬ピクリと動いたのを万江は見ていた。
「よせよ。」
万江は小声で熊代をたしなめる。
こめかみを反応させた部員は、万江達の最後になる大会で痛恨のタイムリーエラーを犯してしまった人物だ。
つまり万江のせいではなかった。
熊代もエラーをした部員を責めたい訳ではない。
ただ単に天然で空気が読めないだけである。
「誰のせいでもないよ。みんなで負けたんだ。」
万江が何を伝えたいかをようやく察した熊代は、皆に聞こえるように答えた。
野球というチームスポーツをしているのだから熊代の言うように「みんな」で負けた事に違いはない。
したがって、うるま工業高校野球部として初めて県大会に出場出来たのも、
負けた試合だけを除いて全試合無失点で1人で投げきった万江と、
敗れた試合も含めた全試合で全打点を上げた熊代を含めた「みんな」の勝利なのである。
二人は顔を見合わせ、歩みを止めた。
皆は二人を置いて、前を行く。
「熊代は就職だよな。」
伏し目がちに万江は問うた。
「うん。
ハチローは東京の亜沢大学だろ?
すげーや、名門から推薦がくるなんて。」
対して熊代は、普段と変わらずに何も考えていない笑みを向ける。
「熊代は、
もう野球はしないのか。」
あまりに真剣な眼差しを向ける万江に熊代は少し戸惑ったが、
「うん。
会社に部活はあるみたいだけど、もう興味ないや。」
あっけらかんと答えた。
熊代は野球が好きでやっているというより、皆と一緒に居る為に野球をしている節があるようだ。
どちらからともなく悪戯坊主の笑みを浮かべると、
二人はズボンとパンツに手をかけた。
「待て~~お前らーー!!」
「うへーい!!」
「うわーー外だぞ!!こいつらマジでイカれてる!!!」
「さすがアホコンビだ。」
「とにかく逃げろ!!」
街灯と星のみが照らす夜を、
坊主頭の群れは、ゆっくりと走りながら過ごした。

 

-ハートフル


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