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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season13-8

   

 帰宅した御影は黒ジャージに着替えて素顔を隠すように黒いワークキャップをかぶり変装して外出した。

 警部たちがいる車に乗車するためだ。そして証拠をゲットしたUSBメモリーを政木警部に手渡す。
 次の取引現場と日時はわかった。あとは警察が一網打尽にする出番だ。役に立てた御影は依頼の終幕をおろせてなにより安堵していた。

 しかし森谷が前方で待機している探偵社の車から音声が覆面パトカー車内で響いた。
 どうやら御影が帰宅するまでに尾行されていたことを教えられた。

 昼食を終えた御影が背後で察知した気配。もしかしたら帰宅中にも尾行しているかもしれないと。そのことをたしかめるため川上探偵が二重尾行をしていた。おかげで相手がだれかわかった。
 サウジアラビア人の男だとわかった。

 尾行されていたことに気づかないとは御影の失態だった。だが、だれも責めていない。結果は今の状況と結局同じになるということだからだ。

 サウジの男はUSBメモリーを奪うために尾行していたのかもしれない。
 もしかしたらサウジの男は、杉山が本物ではないと見抜いていたかもしれない。が、親密なサラは気づかなかった。

 御影は思案を練る必要があると考えていた。

 政木警部が判断をくだした。そしてただただ最善を尽くすと。

 そして薪という男についても、その人生観が露見しはじめた。

 

 杉山は茗荷谷駅の自宅へと帰宅した。そしてすぐに荷物を置いて、身なりも着替えた。黒いジャージに黒いスニーカー。黒いワークキャップをかぶり、黒縁眼鏡をかけて出掛けた。近くの公園に駐車している黒塗りの車に近寄った。

「御影くん、きたわね」政木警部たちが待っていた。

 運転席には伯田警部補。助手席に黒川刑事。後部座席に政木警部がいる。空いている後部座席の政木警部の横にすわった御影。よくみると前方には氷室探偵社の車が停まっている。森谷と川上がいるようだ。

「これがUSBメモリーです」御影は手渡した。

「ごくろうさま。これで杉山、いえ、薪のつながりがわかるかもしれない」

「場所と日時がわかっているんですよ。警察で一網打尽にしてくださいね」御影が働きに見合っただけのことをしてこの依頼を終幕できたことを誇らしく思った。

「なにいっているの、なんのために着替えさせたと思っているわけ?」

「え?」御影は驚いた。

「御影くん」森谷の声が車内のスピーカーから聞こえた。無線でこちらとの会話ができるようにしている。どうやら車内にモニターと音声機器が設置されているようだ。
 これぜんぶ雲田作のものらしい。

「きみは尾行されていたのだよ」森谷がいった。

「なんだって?」御影は尾行に気づかないわけがない。プライベート・アイを発動していれば後方への気配を感じとるだけの視野の広さへとなる。「あっ、そうか、帰宅中、電車の中で目を閉じて安息についていた」

「そうよ。疲労感で身も心も、そして頭脳と目まで酷使しているだろうから、川上探偵に電車の中であなたを見張ってもらっていた。そしたら姿を現したわ」政木警部が尾行されていたことを話す。

「なにを?」

「あなたが昼食をとり終えたあと、なにか察知したよね? その背後の気配を…」政木警部は御影の直観的な気配を忘れていなかった。だがそれは森谷や川上がアイコンタクトをとり別行動をするしかなかったのだ。

「尾行をされている事実をたしかめるために…」

「そう、二重尾行だ。スパイの常套手段だろう。決まりきったこと」川上がいった。鼻で笑っているのがわかるほど嫌味が込められている声質だった。

「どんなやつだ?」御影は川上にいった。

「さあな、だが日本人ではない。だからサウジアラビア人だろう。外見でわかったし、ちらちらおまえの方角をみていた」川上が言った。

「着替えさせたのは御影くんのからだにその人物が盗聴器をつけていないかわからなかったからだ。発信機もね。居所をわかってしまっては、いまのこの密談は意味をなさないのだよ」森谷が言った。

「サウジの男が尾行していたのか。疲労感と証拠を見つけた安堵から俺は失態を…」御影は打ちのめされていた。これほどの失意は感じたことがないほどに。

「そうでもない」川上がいった。「気づいたところでおまえはどうするつもりだった?」

 御影は考えた。「おそらくみんなに合図をする。そして…、あっ」

「そうだ」御影は気づいたことに探偵仲間は微笑んだ。森谷は眉をあげてにこやかに。川上はあきれるように顔を左右に振りながら。

「そうか」御影は言った。「みんなに合図をおくって、知らないふりして帰宅し、変装していまの状況に…」

「そういうことね」政木警部がいった。

「サウジの男はやはり杉山のUSBメモリーをもとめて?」自分を追ってきたと御影は悟った。

「そうでしょうね。おそらくきょう入館した杉山 太郎は本物ではないと思ったのかもしれない。どこでどう気づいたかわからないけど…」政木警部は真顔になっていた。

「だと、したら明日はもういけない」御影は弱音を吐いた。

「いえ、いってもいい。本物ではないという証明をするのはだれも周囲は信じない。サラという杉山の恋人は外見では御影くんを信じたわけだし」

 政木警部のいうとおりだった。親密のあるサラが見抜けていないのなら、むしろ訴えかけるサウジの男が批判される。

「どうしますか、その男は?」伯田警部補がいった。「素性を探る必要があると思いますが…」

「でも危険ですよ、長引けば負担はぜんぶ御影探偵にのしかかる」黒川刑事が御影の肩をもった。

「それでも、そのサウジの男がどんな立場の人間か、わたしたち警察としてはこのUSBメモリーに入っている情報を取引しようとしている相手を取り締まる必要はある。日本に被害をもたらすことになってもダメ。核兵器の設計図をどこの国のものかわからないけど、日本はそんなものは武力兵器としての製造はしないはず。だから杉山はどこかべつの国の軍事兵器、つまりアメリカとかロシアの核兵器をの設計図を入手した可能性もある。それを売り飛ばすのであれば他国への戦争へトリガーを引いてしまう。それは避けるために最善の行動をとること」

 政木警部は、もっとも未来に影響を及ぼすであろう甚大なる被害を想像していた。そのための捜査であることを初めてこのときわかった気がする。

 賛否両論の意見はなかった。ただそれは途方もない想像の果ての未来予想図である可能性の断片をだれもが脳裡に焼きつけたのだ。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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