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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season13-12

   

 サラは本物の杉山を心配をする。だが、アルの本性をしった。それは杉山の立場、地位、そして報酬を横取りするものだった。

 アル自身もスパイとしての活動にうんざりしていた。そこで、大金を得てどこかへと逃げるつもりだった。そのため杉山の報酬をすべてせしめようと考えていた。

 サラが親密な相手だというのは把握していた。報酬はすべて外国の銀行に預けている。そしてアルはその銀行の暗証番号をサラが知っているとにらんだ。

 サラはそのために手伝わせて聴取できる場所を選び、裏切るつもりだったのだろう。脅迫にも似た怒声でアルはサラを追い込んだ。

 そのとき、御影がついに咆哮する。サラを助けるために。

 御影とアルの口論が幕を切った。体術なら御影は過信して打破できると信じていた。が、アルは銃を握りしめた。

 あっけなく分が悪くなった御影。アルは銃口を御影にギラつかせていた。

 窮地に陥っている御影は時間稼ぎをした甲斐もあり、政木警部が登場した。

 

 アルとサラの会話中、ずっと御影は狸寝入りしながら傾聴していた。

「ねぇ、本物のタロウはどこにいるのかしら?」サラは親密である想い人を心配していた。

「しらんな。だが、おそらく警察の手に落ちているんだろうな」アルは吐き捨てるようにいった。

「彼も助ける条件に加えてくれたらよかったのに…」サラは心底願うようにいった。

「いや、ダメだ」アルは冷たく言い放つ。

「どうして? お願い…」擦り寄るようにサラはアルに近づいた。

 アルはサラの黒い瞳に見惚れてしまい、恋に落ちそうだった。

「ダメだ、もとよりこれは予想外だったが、杉山が消えて今回のUSBメモリーを手にできるなら、おれ個人としては万々歳だ」

「どういう意味よそれ…、個人の利益がだいじなの?」

「とてもだいじだ。そしてこのさき自分の身を案じて大金があれば、いまの立場から逃げおおせる」アルはいった。

「逃げるって、大使館にいるのにそんなことしなくても…」

「そうではない。たとえ大使館の仕事ができていようと関係ない。おれは杉山に成り代わって、杉山の地位を得るんだ」

 サラはいっている意味がわからなかった。杉山がどれほどの地位にいたのかしらない。ほとんど杉山もアルもおなじような立場ではないかと思っている。

「サラ、きみはなにもわからないだろうな。ほんらい杉山は情報を他国に売り渡すために危険を冒している。おれはただそれを他国の窓口人に手渡すだけだ。要するに報酬の割合が途方もなくちがっている」アルは真実を述べはじめた。

「そんなこと? お金ってことよね?」サラは険しい顔になった。

「取り分の8割が杉山の口座に振り込まれる。おれは2割だけだ。金額にしたら割りにあわないんだ!」アルは声を荒げた。よっぽど悔しい思いでこれまで隠密行動をしていたのだろう。優雅にスパイをかっこつけてやっている杉山に憧れている反面、羨んでいるのだろう。

 サラはたしかに一理あるとうつむいた。

 杉山の働きといえば軍事兵器の横流し、核兵器の設計図を入手すること。現物の武器は海上で受け渡し。そしてもっとも重要な核兵器の設計図はUSBメモリーに保存して手渡す。これがアルの仕事だった。
 取引相手はアルのことなど微塵になんとも思っていない。もちろん杉山のことなど知りもしない。戦える武器さえ手にできればいくらでも金は払うというのだ。もっともその金脈はニュースでも取り上げられていた人質に銃をむけている映像からなる身代金要求だ。戦うために金を手に入れる。これがテロリストのあざといやり方だ。

 加担しているアルも杉山こと薪と、サラも同罪となるだろう。三人は大重犯罪者で国際手配されても致し方がない。

 アルはそれを危惧して逃走のための大金をせしめようとここいらで考えていた。

 杉山の取引先の銀行を調べると、海外にあることがわかる。取引する他国から振り込まれていた。とんでもない額だった。
 アルはその杉山の報酬である8割を奪いたくなった。

 サラは黙っていた。たしかに加担していることは自覚していたからだ。

 アルがサラを引き連れてきたのにはわけがある。

「杉山の外国にある銀行わかるよな?」

 サラは首を傾げた。なにを悟らせようとしているのか、思い当たるところがない。

「そんなことはないだろう。杉山と親密のサラが、しらないわけがない。銀行に預けている預金を引き出すための暗証番号だ」

 サラは目を見開いた。思いだしたのだ。たしかに以前、杉山はいったことがある。

“もし自分になにかあったとき、いまからいうことを覚えておいてくれ”。

 そう耳打ちされたのは、4桁の数字だった。

「そ、それは…」サラは思いだしてしまった。その瞬間のひらめいたような顔つきは、実に素直で正直で上っ面の偽りもひっぺがえされてしまいそうにアルの目は真相を見抜いていた。

「教えてくれ」

 アルはサラに近づく。静かに徐々に近づく。後ずさりするサラは逃げ場がない。この倉庫周辺にはひとは近寄ってこないからだ。ここら一帯はアルとサラ、ふたりだけなのだ。

「教えろ!」アルはしびれを切らし怒鳴った。

 サラは肩を竦め怯んだ。恐怖のあまりに。だれも信じられなくなっていた。

 その瞬間、倉庫という響きやすいところに三人目の人間の声が轟いた。

「それがおまえの目的か!」御影は顔をあげて敵眼を光らせていた。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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