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ソラ

   

人気絶頂のアーティスト『akira』。だが彼の素顔は謎のベールに包まれている。彼の歌が街に溢れる中、絞殺による女子高校生連続殺人事件が世間を騒がせていた。
女子高生に忍びよる魔の手。犯人は?そしてakiraの正体は?
貴方は『彼』が誰だかわかりますか?

 

「すっごいよねぇ。akiraって印税ぜんぶ寄付してるんだって」
 少女はやや興奮ぎみに開いた週刊誌を隣で漫画を読んでいる友人に押し付けた。
「ふうん。なんかインチキくさい」
 興味なさげに週刊誌を一瞥し、インチキくさいと一括する。その反面、心の中では(akiraって、なんて素敵なの)と思い、ほうっとこっそり息をついた。
 akiraとは、いま人気絶頂のアーティストである。
 誰もが彼の歌声に魅了され、ことさら女性達は彼の歌声の前では、うっとりと両手を合わせ、しっとりと瞳をそして子宮を潤ませる。それはまるで魔法のような歌声で、甘美であり淫靡であり、オーガズムの波だった。
 耳から体内へと流れ込む快楽音。
 誰もが彼の歌声の前では無力だった。
 しかしながら、そんなakiraの素性は謎のヴェールに包まれていて、彼の顔はおろか、本名も年齢も何ひとつ明かされてはいない。何も知らないからこそ知りたいという欲求だけが増幅し、こうして女性週刊誌が書きたてる真実なのかどうかわからない噂だけを頼りにakira像を更に更に神聖化させる。
「あたしCD見てくるね」
 週刊誌を棚に戻し短いスカートを翻してCDが陳列されている棚へと向かう少女をジッと見送ってから、彼女は先ほどの週刊誌を手にとった。
 彼女もまた例にもれずakiraの信者だった。だが、それを友人に知られるのは彼女のポリシーに反する。
 彼女は流行が嫌いだった。みんな同じファッション、みんな同じ化粧、みんな同じ匂い。みんなと同じは嫌だった。それは彼女が少なからず自分自身に対してコンプレックスを抱いているからかもしれない。彼女の容姿は決して醜くはないが、『今』の顔ではない。日本人であるということを強く感じさせる一重目蓋は最大のコンプレックスであったが、彼女はそれを隠すようなメイクを好まなかった。目を大きく見せるために目の周りを黒く塗りたくるのは、自分自身を否定しているようで嫌だった。だから彼女は流行になんかまるで興味がないという素振りをし続け、心底愛してやまないakiraすらも流行の一部であったから、彼女はその想いを心の奥底に沈殿させるよりなかったのだ。

 

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