幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

愛の果て。守りたいのは、愛しい人。 4

   2016年8月23日  

会えない六実ではなく、懐かしいかつての恋人から連絡が入る。
恋人で大切な相方で…でもなぜか疎遠になってしまった人。
嫌うことなんてできなかった。

 

 
「エリカ、の携帯であってる? 僕の声、まだ覚えてくれているかな?」
 腹の底から出す発声方法で、芝居のせりふ回しのような言い方。
 決して低くもなく、それでいて甲高くもない。
 船の汽笛が低く鳴るように、そんな感じの声を出すのは、ひとりしか知らない。
「忘れるわけないでしょう、あきら。あきらでしょう?」
「そう、僕。今回のことを知って心配でたまらなかった。今更だけど、今のエリカを守らせてくれないかな」
「……あきらでもテレビって見るのね」
「そりゃあ、見るさ。特にエリカがでるなら。欠かさず見た。どんな些細なものでも」
「それって、今のも?」
「ああ、見た。だから守りたい。今、ホテルのロビーにいる。そこに行ってもいい?」
 電話で会話をしてから数分後、再会をしたふたり。
 エリカの目に映る天藤あきらは、かつて劇団創設以来の名男役と言われた頃とほとんど変わっていなかった。
 現役引退後、芸能界にはいらずきっぱりと芝居から足を洗っていた。
 体型維持はかなり大変なものだが、それを意識して今も続けているのならすごい精神力だと感服してしまう。
「久しぶりね、あきら。あなたが引退した以来だから、八年ぶりかしら?」
「僕はいつもエリカのことを見ていたから、久しぶりって感じがしないな。だけど、やつれたね。エリカは元々よく笑って人懐っこいのに、今は人を避けて笑うことをやめてる。もうひとりで耐えることないから。僕が傍にいるから」
 あきらの腕がエリカの身体を包み込む。
 人の体温がこんなにも気持ちを落ち着かせてくれるなんて……ほっとした安堵感が広がっていく。
「ねえ、あきら。傍にいてくれるのはとても心強いけれど、あなたは平気なの? その、お仕事とか生活とか」
 現役の頃からのトレードマークでもある、金髪に赤いメッシュ、短髪にしているから余計長身が映える。
 切れ長の目で流し目をされると、今でもクラッとしてしまいそう。
 もったいないとエリカは思った。
 天性の才能を持っているのにあっさりと演劇界から姿を消したことを。
「僕の心配をしてくれるの? 今大変なのはエリカのに? やめてくれ、エリカを助けられるのなら、僕の生活なんてどうってことない。仕事は一応、許可をもらったし」
「……許可?」

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
-, , ,


コメントを残す

おすすめ作品