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復帰はまだしない

   2016年8月24日  

 実家からレストランに向かう大和。
 商店街を突っ切って歩いていく途中、商店街の店の店主たちに声をかけられいろんな人と一言ずつ言葉を交わした。
 商店街を抜けてバスに乗ると、バスでは子どもと仲良くなった。
 人好きの大和は実家からレストランに向かう道中で、人とのふれあいで心の充電を満タンにしていたのだ。

 ランチタイムが終了してディナータイムまでの間、各々用事で散っていった。
 レストランに残ったのは、大和と小学生のころに別れて職場で再会した幸一。
 憎まれ口を叩き合いつつも幸一に復帰の話を持ち掛けられたが、やはり大和は首を縦に折ることはなかった。

 

 
 家を出て、歩いてレストランに向かう。
 いつもはリュックからのほんのわずかな重みだけだが、今日はそうではない。
 右手にかかる、ずっしりとした重み。
 トランペットケースの重量が、歩くたびに手に少し食い込む。
「あー、重い。」
 言葉とは裏腹の大和の緩み切ったうれしげな表情。
 うそのつけない男は、目じりと鼻の下を存分に伸ばし切ったまま職場に向かった。

 大和がレストランに現れるのは、準備時間ぎりぎりということが多い。
 大体寝坊して、寝癖もそのままに飛んでくることが四割を占めている。
 今まで練習に費やしていた時間がランチタイムからディナータイムの合間は、昼寝になったのがそもそもの原因である。
 今はランチタイム前ではあるが、ランチタイム前でもいつも時間ぎりぎりに到着する。
 というのも寄り道がとても多いのだ。
 実家からレストランに向かう場合は商店街を突っ切ってレストランに向かうのだが、大体商店街の中の店主たちに呼び止められる。
「今日もレストランかい?」
「楽しんどいで!今度行くからね!」
 そして今日はうれしい言葉がついてくる。

「今日は相方もご出勤なんだね!」

 演奏活動休業中とはいえ、トランペットは心の底から好きだから。

「お遊びだけどな!」

 素直なうれしさを爆発させた大和の笑顔に、声をかけた側の人間の気持ちが明るくなる。

 大和は本来心治と和彩と同じマンションに住んでいる。
 マンション住まいはあまり好きではないが、家族と四六時中ずっと一緒にいるという方が耐えがたい。
 自分中心の居住空間に身を置くことと、自分の部屋に閉じこもりのでは訳が違うのだ。
 マンション住まいがあまり好きではないのは、近所付き合いが希薄だからである。
 元来根っからの人すきの大和は、今歩いて出勤している商店街の人と人とのふれあいがあって初めて生き生きできる。
 マンションの住人は下手に声をかけてしまったら、相手次第では変質者扱いである。
 人恋しくなったら実家に帰り、商店街を突っ切って仕事に出向く。
 そうすることで心の充電が満タンになる。
 オフの日に商店街に出向くこともあるが、その時はがっつり一日人と絡むので朝から夜まで商店街にいることになる。
 日程的にそうもいかないとき、こうして充電しながら出勤してほこほこ状態でピアノフォルテ入りするのだ。
 知り合いと一言ずつ交わしながら商店街を抜けて、バスに乗ってレストランまで向かう。
 バスの中でも子どもと仲良くなって、最近のゲームの話をして盛り上がり、あっという間に降りる駅に着いた。
 携帯の液晶を確認すると、今日も集合時間にぎりぎりの時間が来ていて。
「やべっ!遅刻遅刻!」
 そんなに早くない足で走っていく。

 滑り込みセーフの時間で中にはいると、いつの通り準備が終わっていた。
「すんませーん…。」
 時間はあと一分ほど余裕があったが、こうなればほぼ遅刻扱いと言っても過言ではない。
「家をあと五分早く出ることはできんのか。」
 あきれ返ったように心治がため息交じりに注意すると、大和は苦笑して後ろ頭をぼりぼりかいた。
「今日実家から商店街を抜けてきたから時間かかっちゃった。」
 いいわけではあるが、事実は事実である。
「実家からのコースなら、一時間早く家を出ろ。」
 大和の人好きも、あの商店街の人間たちの大和好きも心治は痛いくらいに知っている。
 以前大和日連れられて行って、イケメンや何やかんやでおばちゃんやおじちゃんにもみくちゃにされた覚えがある。
 大和のように人好きではない、どちらかと言えば人見知りな心治からしたら、かなりの刺激だったのは言うまでもない。
 ちょっとした込み合ったテーマパークにでも行ったかのような疲労感だったのを、今でも覚えている。
「これでもかなり早く家を出たんすよ~?」
「ここに最低でもあと十分は早く着くように、時間調節しながら来るんだな。」
「はーい。」
 あまり反省していないのが、大和の声とふくれっ面から伝わってくる。

 

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