幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

Egg~ノクターン~episode9

   2016年8月26日  

 ララの右目は、きっと今でも罪の重さを見つめている。そして左目はきっと、今だけを見つめている。それは永遠に変わる事がなくて、彼が生きている限り亡霊の様に取り憑くのだろう。そう、パープル・アイの亡霊だ。

 大人の為のラブストーリー!ビターな時間をどうぞ。

 

 ララが、珈琲を一口飲んだ。泣きたいのを堪えている様にも見えた。そして続ける。
「親友がいたんだ。俺達は学校に行く金もなかったから、金持ちが要らなくなった教科書で一緒に勉強をしたり、仕事を手伝いあったりした仲だった。だけどそいつが、寒波の年に飢えに耐えかねて盗みを働いた。卵一個に懲役35年だ。馬鹿げてる。そして翌年、鉄格子の中で……チフスで死んだと聞いた」
 俯いたまま、ララが泣いているのがわかった。珈琲がしょっぱくなるくらい、涙が落ちていた。私はただ、そんな彼に身体を寄せることしか出来なくて。拍動と共に、心の痛みが伝わってくる気がした。少しでも、その痛みが私に移ればいい。そう、思った。
「12歳の時、母さんが脳と肺を患って倒れた。薪を指差して、〝パンが食べたいから取って〟なんていうくらいおかしかった。パンなんてどこにもありゃしない。パンだけじゃない、食べ物がないんだ。12歳のガキが働いた〝お駄賃〟程度じゃ、村では卵一つ買えやしない。その時、村では闇市の話が持ち上がっていた。貧乏な村だったから仕方ない。子供や、臓器を売買して金に換える商売だ。健康な人間の〝身体〟は高く売れると聞いた。だから俺は自分を売った。まずは右目、そして腎臓……そこそこ金にはなった。だけど、金は直ぐに底を尽きた。ガキだから、通常の3分の1しか支払われていなかったんだ。母さんの治療も出来なかった。日々衰弱する母さんを見て、俺は夢中で村人を……」
 ララの言葉が詰まった。けど、続けられる筈の単語は予想できた。多分それは2文字で……

「……惨殺……した」

 ……やっぱり。
 ララの右目は、きっと今でも罪の重さを見つめている。そして左目はきっと、今だけを見つめている。それは永遠に変わる事がなくて、彼が生きている限り亡霊の様に取り憑くのだろう。そう、パープル・アイの亡霊だ。

「沢山の臓器と目、きっと俺は……俺と母さんは助かる。そう思った。けど、気付いたとき母さんは死んでいた。3日前に……とっくに死んでいたんだ。そこで、俺の中で何かが壊れた。その後は何も覚えちゃいない。目が覚めた時は、包帯まみれのミイラ姿で、警察病院のベッドの中にいたんだ。警察が言うには、酷い凍傷と飢えと寒さと、切り傷の出血多量で死に掛けていたらしい。おびただしい血痕が真っ白い雪の上を這うように続いていて、その先に俺が落ちていたと。改めて自分を鏡で見て、髪が真っ白になっているのに気付いたのも警察でだった。その後証言した。紫の眼の男に、殺されそうになったと。なんでそんな事を言ったのかわからない。ただ、怖かった。怖くてしょうがなくて……証言してから半日とせず、俺は病院を抜け出した」

 何も、言えない。
 言える、筈もない。
 何も……。
 その痛みすら、解り切る事なんて、出来ないよ……。

「……死ぬことが怖くて……ただ、それだけの為に……生きる為だけに人を殺してきた。パープル・アイを狙う奴は、殺さなきゃいけないと思った。そうでなきゃ、いつか俺自身が殺されるって。俺が俺自身を正当化する為に、パープル・アイになった。身勝手だけど、自分を守る為だけに俺は人殺しをする。今日も、明日も、明後日も……ずっと……。その度、俺の中でも何かが死んでいく」

 ララが話を終えた後、暫く私達は沈黙の中にいた。
 小鳥のさえずりを聞いたとき、カーテンの隙間から見えた空は、薄情なまでに青く澄み渡っていた。

*****

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
-, , ,


コメントを残す

おすすめ作品

見習い探偵と呼ばないで! Season10-12 END

見習い探偵と呼ばないで! Season12-9

個人の価値たる犯罪 <前編>

見習い探偵と呼ばないで! Season16-10

アゲハ蝶 episode1