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ウパーディセーサ〈五十七〉

   2016年9月1日  

遅かったですね。ここまでたどり着くのは大変でしたか? 私は待ち望んだのですよ。この日が来ることを。悪魔との再会。記念すべき日なのです。私は水《かつみょう》、そんなところで突っ立っていないで、こちらへ来て、シャンパンでも飲みませんか? そこでぶら下がっているできたての蝋人形を肴に

 

 
 あまりに現実離れした出来事に、僕も宮守も呆然と佇むしかなかった。人間の狂乱する姿を初めて見た。そして、自らの心臓を握りつぶすような、狂気的な死に方も。
「妖刀ミコトは、泉家を恨む者の魂を封じ込め、泉家を恨む刀匠が恨みを込めて打った、いわば泉家エリミネートソードなのだ。しかし、やはり心が傷む。これで、私は天涯孤独。血縁者は全て他界した。私もそろそろ」
「何言ってんだ。俺たちウパーディセーサは家族じゃないか。弱音を吐くなんて川上らしくないぞ」
 そう明るく、宮守は言ったが、表情は明るくなかった。
 なぜなら、川上の出血が思ったより酷かったからだ。
 血はとめどなく流れ出て、川上の周りに池を作っている。
 僕はとっさに松原を呼ぼうと考えた。が、松原はもうこの世にいない。ついさっき、美しい表情で天に召された。
 途端に僕はここにいるのがたまらなく嫌になった。このままどんどん人が死んでゆく。大切な仲間も、敵も関係なくみんな死んでゆく。僕一人だけが生きている。沢山の人の死ぬ瞬間に立ち会わなくてはならない。それはまるで不老不死の悩み、創造主の苦難。
 赤い部屋が渦に飲み込まれてゆく。ぐるぐると闇の中へ溶け込んでゆく。空気も、景色も、時間も、記憶も、夢も、涙も全て赤黒く混ざり合ってゆく。
 そのとき、優しい声が心を貫いた。

(あたしが眇寨くんを守るから。だから信じて。眇寨くん自身を信じて)

 あのとき、三月が僕に言った言葉。
 そうだ。僕は信じる。三月を、鏡を、宮守を、平山を。そして僕自身を。
 赤い部屋の入り口が開き、平山が息を切らして入ってきた。
「とりあえず、エリミネートマシンの解除コードはわかった……って、おい! 川上。大丈夫か」
 平山は川上に駆け寄り、傷口を診た。
「貫通してやがる。とりあえずこれできつく押さえろ」
 川上の服を脱がせ、それを二つに引き裂き、丸めて傷口に当てた。
「宮守、眇寨。川上は俺がなんとかする。お前たちは先へ急げ」
「悪いがそうさせてもらうぞ。川上、全てが終わったら広い夜空の下で酒を呑もう。だから、死ぬなよ」

 赤い部屋を出ると、真っ白な蛍光灯が僕らの瞳孔に痛みを与える。
 赤い部屋の次は、白い通路。長く伸びるその通路は終着点が見えないほどに長い。はるか遠いところに黒い点のようなものが見える気がする。それが次の部屋につながる扉だったとしても、気が遠くなるような距離だ。
「眇寨、こりゃ諦めて走るしかねぇーな」
「そ、そうですね。行きましょう」
 どれだけの時間、どれだけの距離を走っているのだろう。遠くの方でほくそ笑む黒い点が近付く様子もなく、進んでも進んでも変わらない景色。白い壁と白い蛍光灯。
 息が切れてきた。動悸がする。
 そう思った瞬間、景色が変わった。
 目の前に大きな壁がある。
「おい! 大丈夫か、眇寨」
 宮守が僕を担ぎ上げてくれた。
「すみません。こんな平面で転んじゃうなんて……」
「いや、さすがの俺でもくたびれてきた。足がもつれるのも無理はない。いいか眇寨、息が整ったらゆっくりでいいから来るんだ。俺は先に行って、あの黒い点の正体を突き止めてくる。なんだったらその先へ行って、水《かつみょう》とやらの鼻っ柱へし折っとく」
「いや、ダメです。俺も行きます」
「無茶すんな。そんなふらふらの状態で休憩もせず走ったら、本当にぶっ倒れるぞ」

 

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