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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

Egg~ノクターン~episode10

   2016年9月2日  

「……ララ……終わったよ。早く、逃げよう。こんな場所、嫌だよ」
 ズシャリと、彼の側で膝を付いた。

 いよいよクライマックス突入!

 大人のためのラブストーリー。ビターな時間をどうぞ!!

 

 致し方ない。私は大きく溜め息とも深呼吸とも言いがたい呼吸をすると、天に向かってマシンガンを乱射した。そして直ぐ左側に転がっていたドラム缶の影に、転がるように潜り込んだ。バスバスと脇のドラム缶に穴が開く。
 手榴弾も、持ってこれば良かったな。浅はかな自分に苦笑い。
 一呼吸置いてから周りを見渡そうとすると、再びこちらに向けて銃声が響いてきた。パスパスと別のドラム缶に穴が開く。同時に、覆いかぶさるように人が転がり込んできた。
「うぷっ!!」
 妙な空気が洩れたような声が出る。それでも、その人物から滲み出る匂いに涙が出そうになった。
「馬鹿!!」
 そう、ララが耳元で呟いた。
「ララ、やっぱりいたんだ」
「なんで、来たんだよ」
 その声は、怒っている様に聞こえた。
「だって、いなかったから」
 なんだろう? 妙な罪悪感が全身を満たす。と、同時に安堵した。ララの覆いかぶさっていた身体が、私の身体を抱きしめるかのように、ぎゅっと力が込められる。
 ポタリ、ポタリ……と、何かが頬に乗った。涙ではない。だって、彼の顔は私の頭の上にある。
 暫くララに包まれて、身体が離れてようやく気が付いた。左肩が、紺色のスーツの左肩から上腕に掛けて、ぐっしょりと濡れて、色が濃くなって見える。自分の頬に乗る雫に手を滑らすと、滑らした指先は真っ赤だった。
「逃げろ、お前はまだ見られてないから」
 この場に及んで……まだ、あの笑顔を見せる。そして、優しく囁いた。泣いて……しまいそう。
「……何が……あったの? 怪我してるじゃない……」
「大丈夫。こんなのかすり傷だ」
 どこがだ。見る限り、満足に動かせないくせに。私は、彼の傷口を軽く握った。
「痛っ!!」
 ララは悲鳴に近い声を上げ、顔を背けながら大丈夫大丈夫と震える声で繰り返す。私に言っているのか、自分に言い聞かせているのかさえ解らない有様だ。
「……大丈夫……じゃないじゃん……」
 頬を膨らましながら、目を細めて言ってやる。
「そりゃ、傷口握られたら痛いに決まってるだろ」
 ちょっと泣きそう。
 私は上着を脱いで力一杯引き裂くと、彼の傷口に縛り付けた。
「私は、ララと帰る」
 ララが、きょとんとした。
「もう、やめよう? 私は、ララといるから。ずっと、いるから」 
 ララの顔が険しく変わる。
「自分で何言ってるのか、解ってるのか? 俺と生きる? 馬鹿な事言うな。さぁ、帰るんだ。俺が援護するから、フォックスは出口まで走るんだ」
「…………」
 重たい左手を庇いながら、彼はドラム缶脇に銃を構えて身を潜めた。
 私も負けじとマシンガンを握りしめた。

 ……ごめん、ララ。
 これでもさ、私はバウンティ・ハンターなんだよ?
 一時は、あんたの命を狙った女だ。腹は決まってるから。

 ララより早く、その場から転げ出た。乱射するマシンガンが、確かな手応えを伝えてくれた。男の悲鳴と、時々舞い上がる血飛沫が、綺麗なモスグリーンの草に乗った。
 生い茂る雑草が有難い。時々肌に触れるとチクチクするが、手入れされていない分背丈も高く身を隠すには丁度いい。滑り込むように、反対側のドラム缶の影に転がり込む。
 ふとララに目をやると、彼は額に指を付きながら、あちゃ~とでも声に出しそうな暗い表情でこっちを見ていた。とりあえず、Ⅴサインを返す。
 彼も隙を見計らってコッチに来た。到着がてらマガジンを抜き出し新しいものと入れ替えようとするが、左手が満足に動かせない為手こずっている。
「畜生!」
 小さく吐き捨てた悪態も、私には聞こえた。
 彼の握り締めるハンドガンは、通常のハンドガンより一回り程大きい。普段なら違和感なく見えるだろうが、深手を負おう今のララにはいささか大きすぎるように見えて仕方がない。ねと付いた血液に滑り、地面にマガジンが落下した。それを、代わりに私が拾い上げた。
「ララ」
 マシンガンを置いて、その手を差し出した。無言で渡された銃に私がマガジンを差し込むと、弾倉は小気味良い音を鳴らした。銃を返しながら問う。
「本当に、何があったのさ?」
 顔を背けた拍子にあの綺麗な銀色の髪が揺れ、その合間から冷たく突き刺さるような紫の眼が覗いた。
 膨れた様に返答する。
「しくじったんだ」
 と。
「ジェヴィットと出会う前に、仕留めた筈の賞金稼ぎがいたんだ。だけど、そいつ生きてて。俺がパープル・アイだって情報が洩れてた。今朝方マンションに人が訪ねて来たんだ。そいつがその賞金稼ぎの仲間で、大人しくすれば女にだけは手を出さないって」
「……何よ、それ?」
「付け狙ってたんだ。ジェヴィット達が狙ってるのを知ってて、俺がアッチに気を取られてる隙に仕留めるつもりでいたんだろ。それでフォックスの事を知って、上手い具合に利用しようとしたんだ、きっと」
 一息吐いて、ララが再び銃を構える。少しふらついた様にも思えた。確かに、出血のせいか顔色が悪い。
「ララ、何人いるの?」
「あ? 多分4人だ。けど、フォックスと合わせて3人殺った」
 私も、マシンガンを握り直した。
「ララ。これが済んだら、日本に行こう?」
「は?」
「やっぱり、マジョルカ島がいい。うん、アッチの方がピッタリだ」
「……何言ってる?」
 私は、ララの背中へとしがみ付く様に身を寄せた。
「静かに生きよう?銃を捨てて。ショパンがジョルジュと暮らしたように、静かに」
「……フォックス……」
 彼の手が、私の頭を優しく撫でた。
「うん」

 ―― 神様、やり直すこと出来ますか?
 ―― 人として生きていくこと、許してくれますか?

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
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