幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

SF・ファンタジー・ホラー

アストラジルド~亡国を継ぐ者~カーネット王国編 第6話 迫る日 (2)

   2016年9月2日  

城で不審な男を発見したレイシー。その男は彼女に意味深な言葉を残して消えた。
明日に迫った生誕式。王子と王女が誕生日を迎えようとしていた。

『今言わなければ、この先もずっと兄に守られているだけの妹になってしまう』

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~』
【毎週 月曜日・金曜日に更新】

それは、王子と王女の運命の物語。

 

 
「? 誰だろう」

 あまりにもルイスの帰りが遅いので迎えに行こうと思っていた時だった。
 見知らぬ男がフードを深く被り、廊下で佇んでいた。全体を見渡し、そして、何かメモを書いている様子が見てとれる。
 ――――何をしているのだろうか。
 その男の服装には見覚えがない。カーネットの民服でも、鎧でもないあの装いは――――。

「"リュスト"…」

 男が纏う赤みがかった上着を、私は何度か見たことがある。ルイスが昔、見せてくれた本に載っていた。
 あの暗く濁った赤を、リュストは国家の色として掲げている。あの色の上着を纏っているということは、リュストの人間であるという証になるのだ。寧ろそれ以外にはありえない。

「…………」

 もしかしたら、迷ってしまったのかもしれない。ここは本城とよく似ているから、誤って足を踏み入れてしまった可能性もある。
 明日に迫った生誕式。続々と招かれた国々の人間が本城に集まり始めていた。
 

「失礼。あの、どうかなさいましたか? 何かお困りですか?」

 そう声をかけた時だった。振り向いたその男の上着の裏地に描かれた紋章が一瞬だけ視界に映った。その複雑な朱色の紋章は、リュスト兵の中でも確か――――地位の高い者だけが身に付けることを許されているもののはず。

「その紋章……リュスト帝国の方とお見受け致します。何故、こちらの城に?」
「…………」

 男は答えない。声すら出さず、無言のまま立ち尽くしている。
 まるで、生きている気配がしない。息をしているのか不安になるほどに。
 そう思った自分が恐ろしかった。

「ここは第一王子の城です。無断で立ち入るのは無礼だわ」

 フードを取る仕草すら見せないその男に私はそう言い放った。そして、男に一歩近づいたその時だった。

「――――"生誕式には出るな"」
「えっ?」

 『生誕式には出るな』。確かに今、この男はそう言った。けれど、何故だろう。声が――――寂しそうだ。

「それはどういう意味ですか? あなたは一体…」
「姫様! そちらにいらしたのですか!」
「ッジンク?」

 振り向くと、ジンクが慌てた様子で走り寄ってきた。そんな彼を見て、男は私に背を向けた。その時一瞬だけ、フードの奥の顔が見えた。影のかかった顔の中で光った瞳の色を見て、私は思わず動きを止めた。

 何故ならその目は――――ルイスと同じ深い緑色をしていたから。

 声をかける前に、彼は廊下の角を曲がり、姿を消してしまった。私が今大声を出せば、人が来るだろう。ジンクも気づく。けれど、私がそうしなかったのは――――。

「…………」

 何故だか、あの瞳が目に焼き付いて離れなかったから。

「姫様、探しましたよ。殿下がお待ちです」
「行き違いになってしまったのね。ごめんなさい」
「いえ、とんでもございません。それよりも今しがた、ここにどなたかいらっしゃったのですか?」
「……ううん。"誰もいなかったよ"」
「そうですか。失礼致しました。では参りましょう」
「うん」

 

-SF・ファンタジー・ホラー
-, , , ,