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魅舞唄師1〜唄を捧ぐおとぎ話4〜

   

 院長室を後にしたカルスは、挨拶回りに奔走していた。
 そして結局深夜まで挨拶回りは続き、最後に王太子・イリアスが残るのみとなった……。

 

 城内は静まり返っていた。
 昼間は公務でせわしなく大臣や貴族達が行き交っているが、深夜ともなるとそれも落ち着いている。
 大きな行事があるときはこんな時間でも慌ただしいが、今は無い。
 そんな城内をカルスは疲労の残る表情で歩いていた。
 院長室を出た後、それぞれの長、同僚であり先輩でもある自分以外の副長達、そして国王と宰相、世話になっている大臣達に挨拶周りをした。
 後は最後の一人、王太子であるイリアスの元へ行くだけだ。
 はぁ……と、重いため息をつく。
(行かなくては……駄目だよな……?)
 セリアが伝えたイリアスの伝言を思い出す。
『今日中にちゃんと挨拶に来るように』
 正直行きたくはない。
 イリアスといると疲れるのだ。
 彼は親友などと言っているが、自分は認めていない。
 ただ、たまたま幼少時に学んだ場所が同じで、たまたま席が隣同士で、たまたま最初に言葉を交わしたというだけだ。
 それ以来共にいることが多くはなったが、それは自分が望んだわけではない。
 だから親友などでは絶対にあり得ない。
 あってもそれはただのくされ縁だ。
 だが、行きたくはないとは思っていてもそこに向かって歩いていればいずれは着くわけで……。
 つまりはイリアスの部屋に着いてしまったわけだが、カルスはためらってノックしようとした手を寸前で止めていた。
 心の中では葛藤が始まっている。
 会いたくはない。
 だが、今日中に来るようにと伝言を受けた。
 今日中に会わなければ後でどんな報復が待っているか知れない。
「……よし」
 意を決して戸を叩く。
 コンコンと軽い音の後に、イリアスの美声が返ってきた。
「誰だい?」
「カルス=クラフトです」
「ああ、どうぞ。入ってくれ」
 言葉に従い戸を開き中に入る。
 静かに戸を閉めてイリアスに向き直った。
「遅かったじゃないか。カルス?」
「……申し訳ありません」
 嫌味だ。最初から最後に来るであろうことは予想していたはずだ。
 それであえて聞くのだからたちが悪い。

 

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