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エリカの花言葉 第1話 エリカ《孤独》 1

   

 隣町から菖蒲町に引っ越して来た河村洋平は、堀北中学校に入学すると、北海道から引っ越して来たという嶋岡弘行と出会う。
 心臓に病を持ち、体の弱い洋平に対して、弘行は歳よりも大人びて見える少し不良気質の少年だが、入学して地元の友人などがいない二人は会話をするようになる。
 すると、中学校への入学を期に福岡から引っ越して来た杉浦恵里香も、洋平と席が隣同士であることから二人の仲へ混ざると、三人は仲の良い友達同士へと発展した。
 杉浦恵里香は、小学五年生まで人気子役としてテレビに出ていたが、家庭の事情で引退して菖蒲町に引っ越して来た。
 その人物が堀北中学校へ入学してきたことが公になると学校中が騒ぎ出すのだが、引退したことに深い訳がある恵里香には、子役時代の話を持ち出されることが大きな悩みであった。

 

 これはきっと夢の中の出来事だ。坂道を駆け上がり、丘の上へ向かう途中で古い屋敷の塀を背伸びして覗くと、庭に咲く薄紅色の花を見つけた。
 それは小さな鐘のように見える花であり、緑葉を交えながら無数に咲いている。
 陽射しを浴びて光る花を見ると、これは夢であることに気が付く。
 目を覚ますと、僕はまだ生きているのだと感じた。

「洋平君、洋平君、検査終わったよ」
「あ、あぁすいません」
「検査、長かったからね。眠くなっちゃったのでしょう」
 診察を受けていた河村洋平はベッドから起き上がると、外れたシャツのボタンを止めながら窓を見る。満開に咲いた桜の木が見えると、夢で見た花を思い出すのだが、ぼかされていた記憶は、眠気眼が覚めるほどに消えていく。
「あの花、何て花だろう……」
「え、何か言った?」寝ていた洋平を起こした看護師が問い掛ける。
「いゃ、別に、何でもないです」
「洋平君も明日から中学生ね」
 桜の木から木漏れ日が窓から入り込み、白い壁や床に反射する。その陽射しの下に看護師が立つと、薄いピンクの白衣に白色が混ざり淡色を引き立てる。ナースキャップに止められたヘアピンがキラキラと光り、洋平には銀の髪飾りに見えた。その輝きに見とれていると、洋平の主治医が病室に入ってきた。
 彼はいつも、頬が疲れないかと気にかかるほどニコニコとしていた。この主治医には小学四年生の時に心臓の手術をしてから定期的に検診を受けている。今日の洋平は、病状を入学する中学校へ報告する為に検診へ来ていた。
「心電図の検査終わっていたけど、よく寝ていたから起こさなかったよ」
 寝ていると痒くなるあの鼻づまりが、苦しくて大きな口でも開けていなかったかと思うと、洋平は恥ずかしそうに頭を下げる。
「小学校と同じように、中学校も普通に登校して大丈夫だよ。但し激しい運動は駄目。だから残念だけどバスケ部へ入部することも我慢してくれ」
「そうですか……大丈夫、正直言ってバスケ部はやめようと思っていたから」
 小学校三年生までは普通に楽しんでいたバスケットボールだが、心臓の具合が悪くなり始めてからはバスケットボールどころか、体育の授業も見学ばかり。女の子なら羨ましがるような細くて白い体は、洋平にとって醜い姿であり、中学生になったら体育系の部活に入部して男らしくなりたい……その思いが蝋燭の火を吹き消すように途絶えると、洋平は無理矢理に頬を吊り上げて笑顔をつくり、ペコリと会釈した頭を上げぬまま診察室を後にした。

 

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