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あこがれの力

   2016年9月7日  

 ファミレスで父子二人、いろんな話をした。
 大和にとって父親はあこがれの存在なのだ。
 その父親の原動力を知り、自分に向けられた気持ちを知って、大和の目じりにはジワリと涙が浮かんだ。

 

 
 あこがれは力になる。
 それは大和が誰よりもよく知っているのだ。
 大和は父にあこがれて、トランペットを始めた。
 こんな風になりたい。
 あんなふうに楽しく音楽ができたら、どんな気持ちなんだろう。

 父さんやじいちゃんみたいになりたい。

 物心ついたときには、そう思っていた。
 それと同時に自分がトランペットにのめりこんでいることに気が付いた。
 トランペットを吹いていると、父に、祖父に近づける気がした。
 あこがれの存在に、少し近づけるように思えた。
 あこがれの力が、大和をここまで大きくしたのだ。
 でも、あこがれだけでやっていける世界ではない。
 大和はそれを感じて、いったん楽器から離れている。
 あこがれの力は偉大だ。
 しかし無限ではないのだ。
 いい歳になって、ようやく気が付いた。

 一年間の休みで、わかったことがある。
 それは久方ぶりに父が帰ってきたときに、大和と二人で食事をした時のことだ。
 いつ振りかわからないくらいに外食をした。
 世界を股にかけている父親と出向いたのは、近くのファミレスだった。
 高い店はお互い嫌いだし、肩の力を抜いて話ができるのはファミレスに限る。
 親子の呼吸で、自然な流れで相談もなくファミレスに落ち着いた。

 ──今日は帰りたくないな。

 家を出たときから、父も大和も同じことを思っていた。
 話したいことが、お互い山のようにある。
 酒を飲んでもいいが、もれなく両者共に酒に飲まれてしまうため今回はドリンクバーのお世話になることにした。
 店に入って席に着き、メニューを見ながら何を頼もうかと相談し合う。
 神家はいろんなものを頼んで、みんなでいろんなものをつまむ。
 大体頼むものが決まり、父がチャイムを鳴らした。
 パンポーンと、柔らかな音と共に店内の電光掲示板の数字に明かりがともる。
 オーダー票を持って現れたおばさん店員を見て、男二人は内心ちょっと残念に思う。
「唐揚げとフライドポテト、イカげそ。あとかつカレーを一つと枝豆。以上です。」
 父が頼んだものは、大和が普段頼むようなものばかりだった。
 親子で味覚が似ると、食べ物でもめる事がないのがうれしいところだ。
「ビールのつまみばっかじゃん。」
「つまみだけでも十分うまいだろ?」
 飲みたいけれど、それよりもやりたいことがある。
 一応文句を言う大和も、それを押さえる父も。
 それを踏まえたうえで、ドリンクバーに出向いた。
 こういう時は半端に炭酸を飲むより、ジュースにしてしまった方があきらめがつく。
 父は健康的に野菜ジュースを、大和はなぜかコーンスープを持ってきて、とりあえず乾杯した。

 

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